05「生まれる前に書いたシナリオ全部忘れて」

2020年、槇原敬之二回目の逮捕。

僕としてはこのニュースは何よりもショックで、その日仕事から帰ってきてひどく落ち込んだのを覚えてる。まだ18時にもなっていないのに、何もやる気がせずその日はそのまま布団に入り、そのまま眠りについた。

単純に感じたのは、もう彼は表舞台に現れずもう彼の作品を聞くことはできないということ。捕まったという事実よりもこっちの方が僕としてはこたえた。

そんな中、1年半後の9月に活動再開 & 新作アルバム発売を発表。
アルバムのタイトルは「宜候(ようそろ)」

宜候は航海用語。
全速前進、このままこの道を進んでいこう的な意味合いだ。
復帰後、この希望に満ちた言葉をタイトルに冠したのが何とも彼らしい。

さて、この曲は彼のアルバムではよくある構成でintroductionから始まる。
タイトルは「introduction〜東京の蕾〜」
ただこの曲は他のアルバムのintrductionとは違い歌詞が付けられている。

君は春近い東京の蕾 遠く故郷から飛んできてここで芽吹いた

槇原はプロを目指すために若くして、東京へ出向く。
「東京DAYS」や「三人」など、当時を懐古する曲は多々あるんだけどこの作品もそんな一つに入る。芽吹くには彼を成長させてくれて東京への感謝の意味もこめているのだろう。

この歌詞の中で東京の情景を「切り取られた空の下」と表現している。
東京の高層ビル群。高槻出身の彼としては高い建物は近くにどんとそびえる山くらいしかく、景色も遠くまで広がっていた。そんな中、東京で上を見渡せばビルの中から窮屈そうに顔を覗かせる空しか見ることができなかった。だがこれは彼の選択で、彼はここから自分の信じた希望の道を歩んでいくなんでとになる。

曲のメロディ部分はどうだろう。
この曲は3段構成になっている。

まず最初の部分。
ここは電車の走る音だけが入っていて、都会にきた彼がまだ芽吹かず東京の音だけを聞く様子が伺える。

その次。
ピアノのメロディが入り、シンガーソングライターとして活動を始めた彼の様子をここから聞き取ることができるだろう。

そして最後の部分。
最後はケルト系の音楽が入ってくる。ケルト系の音楽は彼の音楽の幅を広げてくれたジャンルで、まさに彼の才能が東京で芽吹き開花したことを表している。まさに彼が歩んできた道を音楽だけで表現した作品なのだ。

そしてこの曲の隠れたポイントは、アルバムの次曲「ハロー!トウキョウ」への繋がりがスッと入ること。これはアルバムをシャッフルせず、順曲ですすむ設定にしないとわからない。これに気づくまでは「なぜこの曲がこんな終わり方をするのだろう」と思っていたほどだ。

是非ともこの高揚感ある繋がりに楽しみを持ちながら聞いていただきたい。

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