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オリジナル・ゲームポエム『檸檬』

オリジナル・ゲームポエム『檸檬』 初出:「FT新聞」No.3235
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 オリジナル・ゲームポエム『檸檬』
 デザイン:あるかす 改訂:中村俊也、岡和田晃
 プレイ人数:3人
 Ver1.3
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〈はじめに〉
 本作は岡和田晃が東海大学文芸創作学科で開講しているゲームデザイン論の、2020年度秋学期の優秀作を、ゲームポエム紹介のパイオニアである中村俊也先生のご助言のもと、改訂したものです。
 ゲームブックの出版社FT書房のメールマガジン「FT新聞」No.3235(2021年12月2日)で配信されました。
 ゲームポエムについては、すでに本noteで公開済みの「プレイヤー罵倒」、「殿、粗相でござる」あるいは『怪奇の国のアリス+怪奇の国!』(グループSNE/書苑新社)に収録されている「ヘロドトス」をご覧ください。

〈コンセプト〉
 このゲームポエムは梶井基次郎の短編小説「檸檬(れもん)」(1925)を基に考えられています。「檸檬」は青空文庫でも無料で公開されていますから、事前にお読みいただくことを推奨します(https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/46349_23843.html)。
 「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終壓(おさ)へつけてゐた」と、「檸檬」の冒頭一文には記されています。参加者は、この「私」をどのような存在にするのかを共同で描写していきます。そうすることで、梶井基次郎が書いたものとは別の、オリジナルな「檸檬」を作り上げるのが目的です。つまり、このゲームポエムは、「檸檬」を介したシェアード・ワールドという試みなのです。

〈必要なもの〉
 本作は3人でプレイします。所要時間は、およそ30分です。
 本作は、語りをベースにプレイするやり方と、紙とペンを用意してゲームをプレイするやり方があります。前者の方が短時間でプレイでき、後者だとより緻密な話を作り出すことができます。
 また、檸檬の実物か、檸檬に見立てた小道具を用意することを推奨します。雰囲気がぐっと良くなるからです。小道具がない場合、参加者で紙に絵を描いて檸檬を作るところからスタートしましょう。

〈ゲームの目的〉
 このゲームポエムでは、プレイヤー3人で、参加者オリジナルの「檸檬」に登場する「私」の行動、背景、心境を考えていきます。名前や個別の設定を自由に決めていってかまいません。しかし、前の人が決めた設定は(後でひっくり返してもかまいませんが)踏襲しなければなりません。
 「私」は必ず「えたいの知れない不吉な塊」に苛まれており、何処かを歩いて気晴らしをしたいと思っています。それは北海道でも、アメリカでも、あるいは宇宙でもかまいません。そこを歩くだけでも、食事をしたり買い物をしたりしても、それとも何か思いも寄らない突飛な行動に出ても問題ありません。自由に想像の翼を広げていきましょう。
 あくまでもゲームポエムの制作であり、梶井基次郎「檸檬」の二次創作ではないため、必ずしも原典をなぞる必要はありません。

〈ゲームの進行〉
・「私」の【背景】決定フェイズ
 いちばん最近、「檸檬」以外の日本近代文学あるいは海外のモダニズム文学を読んだ人から、手番を開始します。1分以内に、「"私"は○○にいた。それで〜」と背景の説明を続け、最期に「では、"私"は何をする?」と問いかけて時計回りで隣のプレイヤーに問いかけ、バトンタッチして手番を終わります。

・「私」の【行動】決定フェイズ
 バトンタッチされたプレイヤーは、「私」の【行動】を1分以内に決めて描写し、「では、"私"はどう思った?」と言って、時計回りで隣のプレイヤーにバトンタッチします。

・「私」の【心境】決定フェイズ
 最後のプレイヤーは「"私"は〜と思った」と【心境】を答えて、第1ターンが終わります。

・第2ターン
 第2ターンは、第1ターンで「私」の【行動】を語ったプレイヤーが、今度は【背景】を語る役になり、第1ターンと同様の描写を行います。続いて、第1ターンで「私」の【心境】を語ったプレイヤーが、今度は【行動】を描写します。最後に、第1ターンで「私」の【背景】を語ったプレイヤーが、今度は【心境】を描写します。
 注意すべきは、第2ターンではいずれかのタイミングで、「私」は「檸檬」を手に取る描写を挟まねばならないことです。くれぐれも忘れないようにしてください。
 なお、ここでの「檸檬」は必ずしもレモンそのものである必要はなく、林檎でも、ダイナマイトでも、あるいは機密データでも、何でもかまいません。

・第3ターン
 第3ターンでは、第2ターンまでの話の流れで、行動順を任意で決定してかまいません。ただし、なかなか決まらない場合は、以下の流れで語ってください。
 第2ターンで【行動】を語ったプレイヤーが【背景】を描写します。続いて、第2ターンで【心境】を語ったプレイヤーが、今度は【行動】を描写します。最後に、第2ターンで【背景】を語ったプレイヤーが、今度は【心境】を描写し、最後に檸檬を置いて、「さうしたらあの氣詰まりな○○(場所名)も粉葉みじんだらう」と告げます。
 ——参加者は目を閉じ、その場所が爆発する想像をして、物語は幕を閉じます。

〈免責事項〉
 本作は、多くがプレイヤーの手が委ねられるため、思いもよらない展開になることが珍しくなく、成熟した大人の自己責任による運用を前提としています。1人でも不快に感じる人が出たら、ただちにゲームを中止してください。


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