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【全史】第10章 カネやんが変わった/1977(昭和52)年

(1)明るい材料が少ない低評価

 木樽正明と江藤慎一が引退、ドラフトでは上位2選手が入団拒否とオフは重苦しい雰囲気が再び漂った。12月18日に発表されたトレードはクラウンライターライオンズの白仁天外野手、左腕安木祥二投手と、長谷川一夫外野手、倉持明投手のトレードだった。日本ハムを自由契約となった高橋博士捕手、中日を自由契約となった末永吉幸内野手の獲得も発表された。カネやんは一昨年の首位打者で昨年も打率.288、17本塁打、59打点の白に期待を寄せていた。

 注目は外国人選手だった。昨シーズン現役に復帰したラフィーバーは正式にコーチに就任。結局、昨シーズン途中帰国したジョン・ブリッグス内野手とレロン・リー外野手。そしてキャンプに左腕スティーブ・マクナルティ投手がテスト参加すると発表された。ブリックスはオフの間にラフィーバーと徹底的に話し合ったという。「昨年は監督との誤解や自分の病気でシーズン途中に帰国したけどもう大丈夫。昨年暮れにロスでラフィーバーコーチと納得いくまで話し合って解決した。今年は4番の責任を果たす」 とコメントした。しかし、契約が合意出来ず、ブリッグスが来日することはなくキャンプを迎えた。

 「キャンプは初日から参加する」と話していたリーが来日したのは1月末だった。成田空港の搭乗口で球団関係者と報道陣が待ち構える中、姿を現したリーはカバンを抱えていた。報道陣は「バットを大切にする真面目な助っ人」と思ったという。しかし、カバンの中身は趣味のラジコン飛行機だと分かると「遊びに来たのか」と一気に印象が悪くなったと報道陣は苦笑した。
 キャンプに入るとリーの評価はさらに悪くなった。フリーバッティングで打球が飛ばない。サク越えどころかポップフライばかりだった。視察に来た評論家は口を揃えて「ダメ害人」「大砲ならぬピストル」「ロッテはまた外人獲得に失敗した」と酷評した。カネやんも「大砲のつもりで獲ったのに、これでは買い替えなアカン」と厳しい表情を見せていた。
 ただ、リーに焦りはなかった。古傷の肉離れが再発していたこともあり、無理をしない選択をしていたのだった。「ボクはもともとスロースターターなんだ。それに肉離れもあったり日本の冬は寒くてキャンプの頃はマイペースでやらせてもらっていた」とリーは開幕後に明かしている。
 そして、リーはこのキャンプであることに取り組んでいた。肉離れを起こしていることもあり、コーチになったラフィーバーの意見を取り入れ、ミート中心に左右に打ち分けることを第一にバットを振っていたのだ。公式戦に入り、振り回さず、コンパクトに流すことも出来たリーのバッティングは、このキャンプでの成果でもあったのだ。これまではダメ外人を見切るのが早かったカネやん。口では酷評しながら、自主性に任せたのはラフィーバーの説得もあった。ただ、リーの環境が明らかになったのは開幕後。「今シーズンもロッテの助っ人はダメ」という評価だけが開幕前には表に出ていた。

 さて、この年のキャンプはこれまでと違った雰囲気になっていた。まず、昨シーズンまでは自主トレーニングから「走れ、走れ」を徹底させたものの、今年の自主トレにカネやんは姿を見せたなかった。「ワシはその間、テレビの仕事をして稼がせてもらったわ」と冗談めかして笑ったが、実際はコーチに任せることを決め、キャンプでもそれを貫いていたのだ。走る量は他球団よりも多いものの、昨年からは大幅に減っていた。それはパフォーマンスにも現れていた。例年はカネやんがノックバットを持ち、怒声を浴びせながらノックをする姿がキャンプの名物だったが、それも無くなっていた。カネやんは「自主トレをしたといっても身体の出来上がりは選手それぞれで、いきなりペースを上げると故障するヤツが必ず出る。それと今年は新加入の選手が多くいて、最初からロッテ式練習法をやるわけにはいかなかった」と話したが、ここ2年、故障者に悩まされた上での決断だった。
 キャンプ中盤には「選手はやらされてる感がなくなり、自分でやるんだという雰囲気に変わった」とカネやんも目を細めた。

 ところが、オープン戦に入っても状態は上がらない。打撃陣では、有藤が古傷の手首の状態が今一つ。山崎の調子も上がらない。頼りになるのは弘田くらいという状況だが、その弘田も体調を崩して一時離脱する。リーもヒットは出るものの、期待の一発は出ない。そして、打線の核として期待していた白は開幕前の練習で死球を受け、開幕には間に合わないことになった。
 投手陣ではエースの村田が順調だが、それに続く投手で順調なのは八木沢ぐらい。金田留は調子が上がらず開幕ローテから外れることをカネやんは明言。成田は肩痛、三井はヒジ痛で開幕は二軍となる。

 何とも、明るい材料が少ないまま、開幕を迎えることになった。

(2)開幕低迷も明るい兆し

力投する水谷則博(左)と仁科時成(右)

 4月2日、宮城での近鉄3連戦で開幕を迎えた。22,000人が見守る中、村田が先発マウンに上がった。しかし、立ち上がりに1点の先制を許すと、3回にも1点を失う苦しい立ち上がり。援護したい打線だが、近鉄の先発エース鈴木の前に沈黙。村田は6回にも2点を失い降板。結局、打線は鈴木の前に散発3安打。3番有藤、4番リー、5番山崎のクリーンアップがノーヒットでは太刀打ち出来ず、0-6で敗れた。
 続く第2戦は八木沢が先発。2回に2点の先行を許すが、待望のリーに1号が飛び出すなどして逆転。八木沢が踏ん張り3-2で今シーズン初白星。そして、平和台に移動したクラウンとの5日の1回戦は引き分け。開幕からの3試合は●○△となった。

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