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初めてやるときは,誰でもフロンティア

峯岸さんに聞く会
『学校でおりぞめハンドブック』(仮説社 2023年11月発行)の監修をした関係で,その後,〈学校でおりぞめ〉ということでいくつか活動をしています。その中の一つとして,小学校教員の峯岸さんの話を2024年2月23日にオンラインで聞きました。
峯岸さんは2014年から学校でおりぞめを本格的に始めて,現在も続けています。新学期の最初の学級掲示は毎年おりぞめを使ったものですし,それ以外にも年に数回実施されています。

『学校でおりぞめハンドブック』にも峯岸さんの記事は載っています。
そこで,峯岸さんに聞く会となりました。事前に,峯岸さんに質問をしました。
おりぞめをはじめて1~3年のころと10年を過ぎた今と比べて
ア 変わったなと思うこと
イ 変わらないと思うこと
を教えていただけないでしょうか。
峯岸さんとは状況などが違うので,すべてをマネすることはできません。しかし,話を聞くことで,参考になると思ったのです。しかし,今の峯岸さんを聞いて,はじめからそうだったということもあるだろうし,はじめと今は全然違うということもあると思ったのです。これから学校でおりぞめをやってみようという人には初めのころはそうだったのか,繰り返している間にどんな変化があるのか,そして,ずっと変わらないことは何かを知ることは,きっかけになるかもしれないと思ったのです。
そして,23日。峯岸さんが「学校でおりぞめ〈フロンティア〉」という資料を作成し,話をしてくれました。
今回,その資料を編集して公開します。
最初の人にだけの〈フロンティア〉ではなくて,初めてする人にとっては,そこは〈フロンティア〉と考えることで,一歩踏み出すことができるかもしれません。

学校でおりぞめ〈フロンティア〉

峯岸昌弘(小学校) 2024.2.23

●フロンティア精神が好き
フロンティアを直訳すると「辺境」なのだそうです。つまり,「未開の地」。だれもやったことがないのだから,そこでなにかやってみたら,ほとんどの場合,うまくいきません。「失敗が当たり前」です。だけど,そこでちょこっとでも成功したら,みんなの役に立つ発見が,きっとできちゃいます。それは,とても「たのしい作業」です。
●前例がないから「たのしい」
2014年5月31日のメールに,こんな文言が残っていました。
☆峯岸昌弘(みねぎしまさひろ)群馬・小学校mine2sig@hotmail.com
普通学級での〈おりぞめの授業の可能性〉に気づいている人。ご本人は言葉にしておられませんが,その気持ちを強く感じます。峯岸さんがやってみたいと思うプランを提供できたらいいと思っています。まあ,ぼちぼちとやります。
これは,「おりぞめ作選NOTE」の参加者紹介で,山本俊樹さんがぼくのことを紹介してくださった文章です。これを読ませていただき,「ああ,ぼくは〈普通学級でおりぞめをする人〉としては先駆者のひとりなんだな」と思うことができました。こういう評価をされると,ぼくはやる気がわいてくる人間です。実のところ,可能性を感じているかどうかは,自分でもよくわかっていませんでしたが,「可能性をつくることはできそうだな」と思って,ぼくのフロンティア精神に火がつきました(笑)。
この時はまだ,「だんだんツリー」と「ハートでハート」と「おりぞめ習字・自分の一字」しかやったことがありませんでした。当時のクラスは4年生の単学級で,「学年でそろえて」みたいなしばりもありませんし,図工の時間は担任がもっていましたので,「やろうと思えばいつでもやれる」という状態にありました。さすがに,特別支援学級のような「月並おりぞめ」はできないとしても,おりぞめが使えそうな機会があったら挑戦してみよう!という気持ちになっていました。その結果は…
4月「おりぞめ習字・自分の一字」
5月「おりぞめ手紙・簡易版」
6月「おりぞめコラージュ・あじさい」
7月「おりぞめ銀河K・天の川」
10月「マンゲキョウおりぞめ」
12月「おりぞめ・だんだんツリー」
1月「おりぞめハッピーくじ」
2月「おりぞめ角ラミ封筒」
3月「おりぞめハートでハート」
と,ほぼ毎月のように試してみた1年になっていました(笑)。4月の段階でこれが予想できていたかというと,全くです。「ひとつやってみて,うまくいった」が,「もうひとつやってみようかな」という意欲を生んで,それが続いたという感じです。「となり,となりに…」とやってきて,気づいたらこんなにできていた,というわけです。ビックリしたのは,おりぞめって,ほんの数時間で質の高い作品ができあがるんですよね。だから,単元の合間のちょっとした時間でできちゃうんです。その後,ぼくの中で,おりぞめの授業は,簡単な「ものづくりの授業」みたいな印象になりました。
その次の年は,4月に「おりぞめ・赤い風船」をやって,それを「学級目標〈どっちに転んでもシメタ〉」の飾りにしました。それをきっかけに,その後の学級目標の飾りは,毎年おりぞめになっています。「若葉」「たまモノ」「銀河K」「虹」「つばめ」「こんぺいとう」「たんぽぽ」「魚の滝下り」と,いろいろ作っています。
また,新しい「おりぞめ」が発明される度に,クラスで試してみることもしていきました。「ステンドおりぞめ」「たまモノ」「ミニノート」「マグネット」など,その時々の旬のものをやってみて報告するのもたのしかったです。
まだ,普通のクラスで試されたことがないので,ぼくがやってみて,「できましたよ」という報告は,きっと,誰かの役に立つのではないかと思えたことは大きかったです。でもそれは,「誰かのためにやってあげよう」とは思ってなくて,自分がやり始めるためのきっかけとして使わせてもらっていました。そういうのないですか?「自分がやりたいからやる」んだけど,それだけだと勇気がわかないこともあって,「誰かのためにもなるかも」と思うとできる,みたいな。そういう〈フロンティア精神〉を使えると,いろいろなことがやりはじめられて,自分も元気になるし,子どもも喜ぶし…という好循環が作り出せる気がします。
●ここで,俊樹さんの質問にこたえます
おりぞめをはじめて1~3年のころと10年を過ぎた今と比べて
ア変わったなと思うこと
イ変わらないと思うことを,教えていただけないでしょうか。
「ア変わったな」と思うことは,〈初めてではない〉ということです。もうすでに,あの頃のフロンティア精神はほとんどありません。その分,なにがあるかというと「これをやったらたのしい時間がつくれる」という〈教材への信頼〉があります。
当時の「授業を始めるエネルギー」が10必要だとすると,今は,同じ授業をするのに3のエネルギーでできてしまいます。
初めてではないので,見通しがある分,準備に不安がありません。やった後の周りからどう思われるのか,などの反応も,ほとんどないとわかっているので,特に緊張することもありません。毎年やっているようなものであれば,誰かに報告することもないので,やった後に通信で報告することはあっても,資料を書くこともありませんから,子どもに感想をとることもしてません。そうなると,「純粋に子どもが喜ぶことだけをたのしむ」ことになり,非常にラクです。というか,子どもが喜ぶとわかっているから,「その時間をプレゼントしたい」と思って生み出すエネルギーが「3」くらいなのです。
ちなみに,どちらも結果は「やり始めるエネルギー」の3倍くらいの「やりがい」が返ってきます。どちらも嬉しいことには変わりないですが,やりがいや感動は,初めてやるときの方が断然大きいですね。
でもおそらく,子どもたちが感じている「たのしさ」は,どちらも同じくらいでしょう。こちらが初めてじゃなくても,子どもたちは「初めての体験」ですから。ラクして最大の効果が得られます。
そう考えると,変わったことのひとつに,エネルギーが少なくできる分,「たのしいことがコンスタントに入れられるようになった」ということがあります。それは「おりぞめがたくさんできるようになった」というより,「他のたのしいことと平行して,おりぞめもできるようになっている」という感じです。
当時は,おりぞめをするのに10のエネルギーを使っていましたから,その日のそれ以外の授業には力を使えませんでした。でも今は,同じ日に別のたのしい授業をやっても大丈夫,という状況になっています。
またそれは,自分がすごく疲れていて,体調が悪い日であっても,クラスの雰囲気悪いから〈おりぞめで優しい時間が作り出すか〉という選択肢が選べる,ということでもあります。それって,すごいことだと思っています。
そして,無理してないから,目標も低くしていられます。こんなにキラクにやっているのだからと,期待は8割くらいです。そうすると,あまり乗り気でない子がいたとしても,放っておけます。これ,意外といいことです。でも,おりぞめだと,気乗りしてない子もほとんどないんだよなぁ。これは不思議なことです。他の授業ではいるんですけどね。
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あとは,〈定番ができた〉ということでしょうか。定番で残るモノというのは,自然に「ラクで,喜ばれて,周りからも高評価なもの」になります。「広げ水」「自分の一字」「だんだんツリー」「ハートでハート」は確実に複数回やっていますから,確実に「定番メニュー」となっています。ちなみに,「広げ水」は,「おりぞめのやり方」の〈一般的な形〉になってしまったのかな,と思っています。
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「イ」の「変わらないこと」は,先ほども出てきましたが,「子どもたちの喜ぶ姿」でしょう。これは普遍的です。喜び方は子どもそれぞれで違うので,毎回新鮮なのですが,だれもが,自然体のいい表情をしてくれます。そして,紙がなくなるまでおりぞめを楽しみ,「またおりぞめしたい!」と言ってくれます(笑)。また,〈おりぞめへの信頼〉は,「変わらないこと」の大切なところでしょう。
●初めてやるときは,誰でもフロンティア!
こうして書いてくると,通常学級であまりやられていなかった「おりぞめの授業」を,2014年からやっているぼくだけが「フロンティア」なのか,と思ってしまうかもしれませんが,とんでもありません。
ぼくは,すでに誰かが他のクラスで実施されている「おりぞめの教材」であっても,はじめて自分でそれをやるときには,すごく緊張しますし,やるためにエネルギーも使います。それは,その初めての教材が,ぼくの中での「フロンティア」だからです。他のクラスでどんなにうまくいっていたとしても,自分のクラスでも当てはまるのかといえば,そんなのはやはり,やってみなければわかりません。
それに,自分の学校で「おりぞめ」をしている人なんて,まずいないでしょう。その時点で,あなたがその学校の〈おりぞめフロンティア〉です。ましてや,自分がまだ授業してみたこともない状態で,やってみるなんて,相当なエネルギーが必要なことは目に見えています。
そう,どんなに前例があったところで,誰でもみんな,はじめてのときは〈フロンティア精神〉が必要なのです。
だけど,〈フロンティア〉は大変だけれど,同時に,たくさんの「シメタ」もあります。
大きく3つ。
①わくわく感がスゴイ!
②子どもからの評価が,何倍も嬉しい!
③うまくいかなくて当たり前,というキラクさ。
という感じでしょうか。初めての時は,飛び込んでくる景色がみんな新鮮で,輝いて見えます。そのわくわく感はものスゴイです。まだこれを経験していない人にはもちろん,すでに同じ経験をした人にも,この気持ちを共感してもらいたくなって,つい資料に残したくなってしまい,授業が終わってからも充実した時間が続きます。緊張した分,子どもたちからの評価がものすごく嬉しく感じます。子どもたちからの感想文は,子どもたちからのご褒美。ぼくの宝物です。
そして,やっぱり失敗はするけれど,それが気にならないくらいの達成感を味わえます。「もっとこうすればよかったぁ」と思っているというのは,「次にやるときは…」と自然に考えているものです。「初めてあるある」なので,そんなに傷つかないし,むしろ,いい経験だと思えます。なんでもシメタになる。初めてやるときの特権じゃないでしょうか。
●おわりに「自分の意欲を大切に」
〈フロンティア精神〉は,「自分の〈やりたい!〉に正直になること」だと思います。多少,周りから何かを言われようが,自分の好きなようにやってみるのです。それでうまくいかなくても,あとからモヤモヤ考えちゃうことなんて,ほとんどありません。「やってよかったな」と思えることはあっても,「やっぱりやらなければよかった」と思ったことは,一度もないんじゃないかな…?振り返ってみると,そんな感じです。
だからあなたも,目の前に広がる〈フロンティア〉を,マイナスにとらえるのではなく,〈やってみたい!〉を大切にして,めいっぱいたのしんでみませんか。きっと,すごくドキドキする分,たくさんの喜びが返ってくるはずです。
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以上で峯岸さんの「学校でおりぞめ〈フロンティア〉」は終わりです。いかがでしたか。
〈フロンティア〉というと,誰も行っていないところというイメージがありますが,それだけではなくて,その人が初めてすることも〈フロンティア〉というのは,わたしにとっては目からウロコでした。

★最初は緊張する
奈良市の観光地の一つ,猿沢池のそばに〈奈良ビジターセンター〉という,外国の旅行者のための施設があり,着物のコスプレイや折り紙,書道などが毎日体験できます。そこで,昨年の5月から月2回程度で朝10時から午後4時までの間,〈おりぞめ体験会〉をボランティアで実施しています。


奈良ビジターセンターでのおりぞめ体験会の様子

漢字の書いた紙を染めてもらいます。皆さん,喜んで持って帰ります。
2月10日に中国から来た7歳の女の子がやってきました。ご両親は用事があるということで,センターの人がサポートについていました。
はじめは硬い表情でした。そらそうだろうなと思いました。言葉も分からないところで,知らないおっちゃんと面と向かうのですから。幸い,センターの人がいたので,わたしの言っていることは伝わりました。それで,体験。
こんな風に〈最初の緊張した状態でおりぞめをする〉というのは,よくある,というか,〈最初は緊張する〉というのが当たり前と思っています。初めてのことでも難なくやり始める人も確かにいます。しかし,それはその人のペースで,〈人,それぞれのペースがある〉ということです。ですから,することを淡々とていねいに伝えて,焦らずつきあいます。
「おりぞめはスゴイからちゃんとやりなさい」なんて言ったら,やる人もいるかもしれないけれどほとんどの人にはうまくいかないことは想像できます。わたしはおりぞめに絶大の信頼を置いているので,〈こんな人でなければおりぞめができない〉ということはない,〈どんな人でもおりぞめはできる〉と思っています。ですから,どのようにどれだけサポートするのかがわたしのすることと思っています。その人が〈やってみるを選ぶ〉ということのためにありとあらゆる手を尽くします。しかも,それは相手にはわからないぐらいの淡々が理想です。
さて,7歳の子の話。広げた時に,瞬間の笑顔。その笑顔を見たくて,「もう一枚する?」と誘いました。それで,水と山の2枚持っての記念写真。笑顔であることは書いておきます。


2月10日7歳の子の染め紙(奈良ビジターセンターにて)

★子どもも大人も同じ
7歳の子にとっては,よその国で初めてするおりぞめ,まさにフロンティアだなと。初めておりぞめの授業をする大人とまったく同じということに峯岸さんの話を聞きながら思いました。
〈おりぞめの授業を初めてやる人はフロンティア〉と考えれば,わたしのやろうとしていることがより明確になりました。
すべての小学校の先生がおりぞめの授業をしなくてももちろんOKです。しかし,おりぞめの授業をしようと思ってもらえたとしたら,できる範囲でサポートしたいです。
染料や紙や材料の入手方法,どのような授業があり,どのように進めればいいかなどの情報を提供したいです。
そういう意味では〈おりぞめの授業のフロンティア〉にお勧めの情報誌が『学校でおりぞめハンドブック』というわけです。

日本全国,時々,おりぞめの講座も開かれます。
ネット上でも
学校でおりぞめ相談所というブログがあります。

また,noteの記事には,学校でおりぞめを中心にした〈たのしいおりぞめ〉というマガジンがあります。

また,何か質問があれば,わたしまで個人的にメールを送っていただいても構いません。
山本俊樹のメールアドレス orizome●live.jp
(●はアットマークに)

★おまけ〈2回目の話〉
中国から来た7歳の女の子には続きの話があります。
2月23日のおりぞめ体験会にも参加したのです。彼女とセンターの人の二人。
彼女の前のめりの姿。明らかに,前回の硬い表情とは違う柔らかい表情,そして,動きもたのしむ子どもの軽さでした。もちろん,前回同様2枚。


2月23日7歳のこの染め紙(奈良ビジターセンターにて)

10日の1回目の染める前の硬い,緊張した様子,そして1回目が終わった時の笑顔。そして,2回目の始めの前向きな様子と終わった時の柔らかい笑顔。これって,〈おりぞめの授業を初めてする人〉の姿と重なりました。
峯岸さんの「初めてやるときは,誰だってフロンティア」という言葉に大納得です。
おりぞめでフロンティアになる皆さん,年齢,性別,国籍に関係なく応援します。
 
★おまけ〈峯岸さんのこと〉
この資料は2014年から学校でおりぞめのたのしい授業を実施している峯岸さんの話です。
しかし,峯岸さんはおりぞめ以外の他の分野(特に体育と道徳)のたのしい授業のフロンティアでもあります。ここでは,紹介していないので,峯岸さんのネット上のnoteのページやネットなどで手に入る書籍を紹介しておきます。
noteのページ

仮説社の書籍 
『たのしい跳び箱運動への道(DVD付き)』

『道徳大好き!』


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