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◆読書日記.《トマトスープ『ダンピアのおいしい冒険』1~2巻》

※本稿は某SNSに2021年2月2日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。

「このマンガがすごい!2011」オトコ編第6位! トマトスープさんの時代もの長編海洋冒険マンガ『ダンピアのおいしい冒険』1~2巻読みましたよ~♪

無題

 17世紀に実在した海洋冒険家であり海賊であり、作家、博物学者でもあったウイリアム・ダンピアの航海記『最新世界周航記』を元に構成したフィクションです☆彡


<あらすじ>

 17世紀、アメリカ大陸での植民地支配競争に後れを取ったイギリスが、新大陸での利益を最も多く確保していたスペインに対して巻き返しを図ったのが英国公認の海賊船である「私掠船」である。

 正規軍ではない彼ら私掠船の海賊たちはスペインの商船や民間船を襲い、その利益をすいあがていたのだった。
 かくてイギリスは、正規軍を動かすことなく、また大規模な戦争を起こす事なく新大陸のヘゲモニーであったスペインの国力を削いでいたのである。

 そして、その私掠船に航海士として乗り込んで世界中を回っていたのがウイリアム・ダンピアだった。彼は生涯で世界周航を3回成し遂げた最初の人ともなった。

 本作は、そんなダンピア33歳の折、知的好奇心を持って南米大陸を見て回り、動物や植物、原住民の風俗、地形や航海図を記録して回っていた頃のお話。

 彼はまだ、後にこの時の記録をまとめた「最新世界周航記」がベストセラーになり、様々な知識人や海軍省に注目を受ける事になろうとは夢にも思っていなかった……。というお話。


<感想>

 概要をご覧になっても分かる通り、本書は「おいしい冒険」と名づけられてはいれども、いわゆる「グルメ漫画」ではない。

 ダンピアが立ち寄る様々な島や現地民の村などで珍しいものを食べるし、航海の必要に迫られて初めて目にする動物や植物も試しに料理してみると言うくだりも確かに出て来はする。
 だが、それがメインのマンガというわけではない。

 これは17世紀英国の私掠船の雰囲気をマンガ的なフィクションに再構成して幾分マイルドに楽しんでもらおうという作品である。
 幾分マイルドとなってはいるが、読めばわかる通り、長期間海の上にいる海賊の生活は過酷で、生きるためには残酷な事もしなければならない。
 国益のためにはスペインに対して容赦ない対応をする事も往々にしてあったのだろう。

 このマンガを読むとそれは「幾分マイルド」に描写されてはいるが、リアルに想像してみれば酷く陰惨な行為も行われていただろう事は想像に難くない。
 実際、2巻になるとそういうシビアな状況もちらほらと仄見えて来るようになる。

 その代表例が「壊血病」であろう。
 当時のヨーロッパの保存技術から言うと塩漬けか乾物が多くて長い航海ともなると新鮮な食料を口にする機会が減り、ビタミンCが不足して壊血病になる航海士も多かった。

 壊血病となると歯茎から出血があり、歯がグラグラになって抜け始める。硬い乾物が食べにくくなる。
 また血腫ができ、古傷が開いて海賊ともなると全身が血だらけになる。脱力と貧血で寝たきりになってしまい、死者もでる。
 この状況は本作でも出て来るが、リアルな状況だと目も当てられないだろう。

 2巻に出て来る英蘭戦争時の水兵の境遇はもっと悲惨だった。そうやら上級士官が水夫の待遇を軽視したらしい。

 本作はフィクションを交えているとはいえ、上に書いたような状況をしっかり描いていて、結構丁寧に資料を読み込んでいる事が伺えてそこは好印象だ。

 ウイリアム・ダンピアという、日本ではあまりなじみのない歴史上の人物をピックアップして、その魅力を活かすよう事実を再構成するセンスも良い。

 しかし、本作の魅力は何と言っても、頭がいいにも関わらず貧しさから大学へ通えず、私掠船の航海士という粗暴な境遇にありながらも、なお失われないダンピアの無邪気な知的好奇心に、われわれ現代人も共感するという所にあるのだろう。

 ダンピアも17世紀のアカデミーに所属しない市井の独学者だったのである。

 われわれも本書でダンピアと一緒に、当時の南米大陸の珍しい動物や植物を見て面白い!と思い、ダンピアの目を通して見る南米の原住民の生活に興味津々となり、当時の海賊たちの食べたイグアナのスープやカメとダンプリングのボイルの味を想像してうっとりとするのである。

 知的好奇心は時代を越えて人を繋げる。

 知的好奇心は、いつの時代も失われる事ない人間の力なのである。

 独学者のダンピアがケンブリッジ大の学位を持ったカウリーと繋がったのも、フランシス・ベーコンの一節だった。

「知識は力と等しいもの。原因を知らなければ結果を得られないから」

 ダンピアの冒険の最大の武器こそが、知的好奇心だったのである。


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