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『悩ましい世』No.2

猫さんはもらった枝をチョビヒゲ猫に見せびらかすために冥廷へ遊びに行った。猫さんは久しぶりにお気に入りの斜めがけポーチに枝を入れ、会館の井戸から冥界に降りると、冥界はごった返していた。冥廷に続く通路は、沢山の生き物達で溢れていた。

猫さんが冥廷につくと、まるで観光地のような賑わいで、篁公や閻魔大王はほとんど流れ作業で、人々の行先を振り分けていた。冥廷の片隅で休憩をしていたチョビヒゲ猫に、猫さんがポーチから枝を取り出して自慢しようとすると、取り出した枝は暗闇の冥界で突然輝き出し、閻魔大王と篁公が輝きに気がついた時には、冥廷はすっかり光に包まれていた。

しばらくしてチョビヒゲ猫が眩い輝きから視界を取り戻すと、冥廷に座っていた閻魔大王と篁公の姿は無く、さっきまでひしめいていた人々も、通路に並んでいた生き物達もおらず、まるで何年も使われていないような、伽藍堂が広がっていた。

猫さんは取り出した枝を掴んだまま呆然とする。チョビヒゲ猫は突然訪れた激務からの解放に胸が踊ったが、廃墟でもなく虚無でもない、突然広がった風化したような空間に、ただただ驚いた。

チョビヒゲ猫と猫さんは、狐につままれたような状態で会館に戻り、留守番をしていた小野さんに一部始終を話した。小野さんは激しく動揺するもふと冷静になり、猫さんのポーチに入っている枝を借りて、自分の影に近づけた。小野さんのシャドウは悲鳴をあげると、その枝を怖がった。

小野さんは、猫さんが防災倉庫からもらってきた木は聖なる木で、冥廷は本来不浄な場所であるために、猫さんが持ち込んだ聖なる木で、突然浄化されてしまったと推測する。小野さんのシャドウは、枝を恐れるものの、存在が消えることはないが、冥廷の2人は肉体を持っていない霊体のために、聖なる木であっさり浄化されてしまったのではないか…

小野さんは、震える足を抑えながら会館裏の井戸から冥界へ降りると、水のない井戸の底に着いた。小野さんは驚いて、井戸の内側にある階段を登って会館に戻ると、居間のチョビヒゲ猫と猫さんと顔を見合わせる。浄化どころか、3人は冥界へ降りることが出来なくなった。

小野さんは、突然やって来たご先祖との別れに愕然とする。猫さんは、もう冥廷に未練は無く、チョビヒゲ猫も゙ほとほと疲れていたので、内心ホッとするも、小野さんにとっては晴天の霹靂だった。猫さんとチョビヒゲ猫は、小野さんにかける言葉もなかったが、なんとなく静かに寄り添った。



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