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『あらわれた世界』№20

帰還した閻魔大王は何年かぶりに冥廷へと降り立つ。大王は、廃墟になった冥廷に落胆するでもなく、淡々と自分の席へ登ってゆく。閻魔大王の席の棚には古い木槌が入っていたが、長旅を終えた大王は、その木槌を針の山に放り投げた。

「新しい冥廷を作ろう」

冥廷の片隅で、メジェドが開いた扉が閉まると、うなだれた篁公は、扉の向こうから入り込んだ砂粒を握りしめた。悔しさからか、その拳には怒りが滲んでいた。すると、コーンと針の山に何かがぶつかる音がした。我に返った篁公が針の山に向かうと、古びた木槌が落ちている。針の山から冥廷をのぞむと、そこには巨大な懐しい畏怖の存在が見えた。篁公はギョッとして身をかがめ、落ちている木槌を拾い上げた。

モヤモヤがおさまらない小野さんは、会館で3杯目のお茶を飲んでいた。猫さんは、お茶っ葉が無くなってしまったので、紅茶の箱を探している。チョビヒゲ猫は緊張感のある閻魔大王がいなくなったので、安心して縁側で昼寝をしている。お偉いさんが帰ると、深い闇を湛えるシャドウが小野さんに襲いかかった。

閻魔大王は久しぶりに戻ってきた自分の席で、ゆっくり冥界人名録や自分が持ち歩いている閻魔帳を見返していた。時折ボロボロになった大きな台帳にメモを取ったり、閻魔帳や冥界人名録に何かを書き足したりしている。

篁公は針の山を登り、音を立てないよう背後から徐々に閻魔大王に近づいてゆく。

「ワーッ!!!!」

深い闇を湛えるシャドウに襲われた小野さんが叫び声をあげた。ビックリした猫さんはパントリーで紅茶の箱をひっくり返し、寝ていたチョビヒゲも目を覚ました。チョビヒゲ猫が声のする方向に目をやると、居間から、大きな人影が床を這い、凄まじい速さで玄関扉の隙間からどこかへ去っていった。そこに小野さんの姿はなく、大きな人影だけがあっという間に消え去っていった。











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