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『悩ましい世』No.5

「祭りだ!祭りだ!」

商店街の親父が珍しく興奮して会館にやって来た。年末年始の大売り出しや初売りの準備にてんやわんやなこの時期に、親父は突然祭りを開くと言い出した。最近猫さんは留守がちで、代わりに会館の留守番係になった小野さんが、親父に暖かいお茶を振る舞う。

「本物の白蛇様が現れた」

親父の話によると、年末の大掃除でかつて開催した白蛇様祭りで使用した空の祠を掃除していたら、祠の裏に白蛇がとぐろを巻いて座っていた。いつぞやのイベントでお借りした白蛇様はスネークセンターに返却したので、現れた白蛇は野生で本物の白蛇様だと興奮している。小野さんは笑っていたが、翌週の商店街には白蛇様祭りの幟が立っていた。

猫さんは、お気に入りの枝を持って色んな所をお散歩していた。アチコチの地面に枝で落書きをしたり、川の水に浸してみたり、振り回して木の葉を散らしたりした。時には会館に戻らずに、夜中の井戸を枝で照らしてみたりした。本当に不思議な木で、冥府に輝く特殊な性質を持っていた。

小野さんは、会館に戻ってこない猫さんを心配した。チョビヒゲ猫は寒さからか、帰ってこない猫さんは気になるが、暖かい居間のストーブ前から動かない。猫さんはまるで何かに取り憑かれたように、寝食を忘れて四六時中木の枝と戯れている。久しぶりに戻ってきた猫さんは、すっかりやせ細っていた。

チョビヒゲ猫が、軽い気持ちでボロボロになった猫さんの枝に触ろうとすると、猫さんは凄まじい形相でシャーをした。一連の様子を見た小野さんは、さすがに少しおかしいと感じる。猫さんは、小野さんにも枝に触らせず、与えられたキャットフードにも全く興味を示さなかった。心なしか目にはクマがあり、なんだかやつれていた。小野さんは、この枝はなにか良からぬ類の代物なのではないかと思い始めた。

その証拠に、久しぶりの会館で、猫さんが枝をしっかり抱えて眠っている間も、枝はまるで鼓動を打つかのように静かに発光していた。


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