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『イワノキツネ』第2部 №2

仕方がないので、チョビヒゲ猫はパントリーからカップ麺を取り出してお湯を注ぎ、板の間で泣いている破片達に供えると、シクシクとは言うものの、少しずつ泣き止んでいった。

よく見ると、破片の中に1つだけ立派な小石が混ざっており、その小石はフムフムと、泣いていた破片達の事情を聞いているようだった。お腹がいっぱいになったのか破片達はすっかり泣き止み、空腹が理由で泣いていたのではない破片も、話を聞く小石によって悩みは解消されたようだった。

チョビヒゲ猫は安心して、破片達を箒で集めて庭に蒔こうと障子を開けると、そこに猫さんがいてしこたま驚いたが、猫さんは真剣に庭から目を凝らして板の間を見ている。

「ない」

猫さんは警戒しながら縁側を渡り、そろそろと近づいて板の間を覗き込むも、やはり猫さんが板の間に大事に置いていたおキツネ様からもらった白い石が無くなっている。

チョビヒゲ猫がショックを受けている猫さんを横目に、破片達を手際よく箒で集めて自治会館の庭に蒔くと、破片達は土に触れる前にシュワシュワと白い煙となり一瞬で消えてしまった。猫さんは板の間に残された"悩みを聞く小石"をひっくり返すと、小石の裏には透明な塔のような立体の構造物が突き出している。

猫さんは直感的に、この小石は何かを知っていると感じる。塔のような透明な突起をよくよく見ると、面に不思議な幾何学模様が浮き上がっている。猫さんは角度を変えて見てみても、同じ模様を繰り返すそれは何かを意味するものでは無さそうだった。

猫さんは"悩みを聞く小石"を握りしめると、突然深夜にも関わらず自治会館の黒電話が鳴り、驚いて跳ね上がる。冷静なチョビヒゲ猫が黒電話に出ると、電話の主は小野さんだった。

「国指定名勝の白ヘビが逃げ出したらしい」

「クニシテイメイショウ?」

ほどなくして深夜にも関わらず、本当にご無沙汰ぶりに小野さんが、いつもの使役ギツネではなく普通の原付きでやって来た。


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