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『イワノキツネ』第2部 №5

悩みを聞く石は、原付きに乗った猫さん達をグイグイと引っ張る。猫さんはこの石を頼りに進めば、あっという間に白ヘビの居場所にたどり行けると確信する。石は道路が無い場所でもお構いなしに方角を指し示すので、原付きはおのずと蛇行運転になる。

石は自治会館を通り過ぎ、お隣さんのブロック塀を越え、その先の商店街まで走り抜けると、おやっさんが建てたお稲荷さんの祠でピタリと止まる。

「おう。何してんだ?」

ちょうど朝1番に、商店街のおやっさんが、近づくお祭りの準備で祠に来ていた。小野さんが丁寧に挨拶をする。おやっさんは、お祭りの参拝客を入場制限するための、縞模様のロープをぐるぐる巻きにして、祠の横に止めてある軽トラの荷台に積み込んでいた。

「トラロープしかねぇんだ」

石は誇らしげに、軽トラに積み込まれたトラロープの渦に猫さんを誘導する。

チョビヒゲ猫が、おやっさんが祠を掃除する様子を見ている間に、猫さんは悩みを聞く石に、探しているのは"白いヘビ"であることを説明する。小野さんは、近所にある安いガソリンスタンドの場所をおやっさんから教わっていた。

悩みを聞く石は、"そうでしたか!"といきり立ち、鋭利なトガリを更に尖らせて、猛烈な引きで猫さんを引っ張る。猫さんは突如、祠の前まで石に引きずられる。そのケッタイな状況に、おやっさんが猫さんを石ごとつまみ上げる。

「なんだ?」

つまみあげられたまま、猫さんが握っている悩みを聞く石は、それでもグイグイ進むので、まるで猫さんが何度も祠をノックしているような状態になる。

「中に入りてぇのか」

おやっさんが、そっと空の祠に猫さんを納める。猫さんは違う!と首を降るも、おやっさんはうやうやしく猫さんが納まった祠に商店街の煮物を供えようとする。

イケニエにされては困ると、チョビヒゲ猫が慌てて猫さんを祠からひっぱり出すと、握っていた悩みを聞く石がポロリと落ちた。石は地面ですぐさま向きを変え、白いヘビがいるであろう方角を指し示した。

「なんか落ちたぞ」

おやっさんより一瞬早く、小野さんがサッと石を拾い上げ、さっそくガソリンスタンドに行ってみます!と、手早く猫さんとチョビヒゲ猫を原付きに乗せ、おやっさんに大きな声でお礼を言って、祠を後にする。

「白ヘビも、大狐を探しているのかな」

石の導く方向へ原付きを走らせながら、小野さんは疑問に思う。猫さんは小野さんから石を預かると、今度は落とさないようにとしっかり石を握りしめる。チョビヒゲ猫は、商店街で開催されるお稲荷さんのお祭りに、ちょっとだけ参加したかったなと思う。

こうして2匹と小野さんと悩みを聞く石は、期せずしてやはり大狐と同じ、北の方角へと原付きを走らせていた。





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