見出し画像

復活への「終わりなき旅」 ~藤浪晋太郎投手~

 今回は長年にわたる不振からの復活を目指す開幕投手、藤浪投手の今季について振り返っていきたいと思います。

2021年成績

21試合(6先発)48.1回 3勝3敗4ホールド 
防御率 5.21 被打率.247 WHIP 1.80 
FIP 4.57 K/9 9.68 BB/9 7.45

 どの指標も成績も正直あまり良くないな、という感じです。ただその中で特筆すべきはK/9の9.68でしょうか。9イニングあたり9.7個ほど三振を奪うということです。昨年は終盤戦の無双投球もあって10.02と超優秀でしたが、苦しんだ今季もあまり変わらない水準というのは流石というしかありません。まあ2015年には最多奪三振のタイトルも獲得していますからね。しかしWHIP(1イニングに何人ランナーを出すか)が1.80、中継ぎ時に限ると2.13で、BB/9(9イニングあたりの四球の数)も7以上というのは厳しいかなと思います。やはり来年以降も課題はコントロールということが浮き彫りになってしまいました。

画像1

振り返り

 今季のシーズン序盤は先発としてまずまずの成績を残していました。開幕戦のヤクルト戦はなんとか粘り5回2失点。続く4月2日中日戦でも6回1失点の好投。どちらも勝利投手となることはできませんでしたが、ピンチで簡単に崩れないあたり、「今年の藤浪投手は違うな」と思ったファンも多かったと思います。そして4月9日のDeNA戦、7回2失点で待ちに待った今季初白星。ヒーローインタビューでは佐藤選手の場外弾について「ドン引き」と言い周囲を笑わせました。さらに一週間後のヤクルト戦では5.2回を投げ無失点で2勝目、自ら決勝ホームランを放つ大活躍でした。しかしこの試合から右打者への抜け球が目立ち始めます。6回途中での降板となったのも、塩見選手へのデッドボールの影響でした。特にカットボールが抜けている場面が多かったように見えました。

 そして4月23日のDeNA戦。この試合が今季のターニングポイントだったと思います。5回途中まで2安打しか許していないのに7四死球で4失点。球数は5回途中にして92球に達していました。ここで2軍降格となってしまいます。このタイミングでの降格は解説者の方々からも賛否がありましたが、抜け球や四死球の多さを考えると個人的には仕方なかったと考えています。結局3、4月は2勝1敗、防御率は2.60。数字は素晴らしいですがそれ以上に内容が良くなかったかなと思います。

 2軍調整を経て交流戦ではリリーフとして1軍に昇格。不調の岩崎投手に代わって8回を任されました。当初は良かったのですが交流戦の最終戦、6月13日の楽天戦で鈴木選手に痛恨の被弾。結局味方の奮起により勝利投手にはなりましたが、ここで少し自信を失ってしまったのか、不安定なピッチングが続くようになってしまいます。次の巨人戦では丸選手に被弾し、さらに次の中日戦では4点を失い敗戦投手に。ベンチでの藤浪投手の表情からは辛さが伝わってきました。その後もなかなか三者凡退で抑えることができない投球が続き、勝ちパターンを外れてしまいました。7月12日のDeNA戦ではサヨナラ勝利を呼ぶ三者連続三振の快投を見せたものの、翌日は1アウトも取れずに降板。今季はロングリリーフや連投においての安定感も課題だったかなと思います。また8月19日は久々の先発登板でしたが、5回を投げ切れず4失点。最終的にロングリリーフを任されることになりましたが、そこでも結果を残せず登録抹消。2軍でペナント終了を迎えました。先発をしたり中継ぎをしたりという流動的な起用法は難しかったと思いますが、どちらでも思うような結果を残せず悔しいシーズンになってしまいました。

2021年 投球割合

ストレート 56.62%
被打率.307 空振り率6.08%
カットボール 31.28%
被打率.230 空振り率14.67%
スプリット 10.74%
被打率.040 空振り率16.50%
スライダー 1.15%
被打率.500 空振り率0.00%
ツーシーム 0.21%
被打率.000 空振り率50.00%

 (https://baseballdata.jp/playerP/1200062_4.htmlより抜粋)

 スライダーとツーシームはそもそもほとんど投げていないのであまり気にしなくて良いかと思います。まず注目すべきはやはりストレート。藤浪投手最大の魅力です。平均は先発時でも150キロを超えますし、NPBの日本人投手では一番の出力だと思います。それなのに被打率3割超、空振り率6.08%というのはやはり回転数であったり回転軸の問題で、打者があまり速さや球威を感じていないのでしょう。比較としてソフトバンク千賀投手はストレートの空振り率は7.7%とあまり高くないものの被打率が.221と低く、バットに当たってもヒットにできない程の球威があると思われます。また2020年、中継ぎでの良い時の藤浪投手はシュート回転で吹き上がる、いわゆるシュートライズ質のストレートだったと個人的には考えています。しかしその球が今季、特に先発時にはあまり見られなかったのが残念です。

 カットボールはスライダーに近い独特な変化であり、藤浪投手のカウント球であり決め球でもあると言えます。130キロ台の時もあれば140キロ台中盤の時もあり、シュートするストレートと対になる、かなり打ちづらい球だと思います。意図しているのか分かりませんが、時折ジャイロ回転で縦に落ちる、いわゆるスラッター気味のカットボールを投げている気がします。ちゃんと決まったカットボールは誰も打てないはずです。一方で抜け球も目立ち、体付近に抜けたり、デッドボールを当ててしまったりといったこともありました。甘く入ることも多く、被打率は2020年の.094から悪化しましたが、空振り率は素晴らしいので自信をもって投げてほしいです。

 そしてスプリット。150キロ近く出て落差も大きい、ものすごいスプリットです。空振り率も16%超と素晴らしいです。叩きつけてしまうこともありますし、暴投のリスクを考えるとなかなかこれ以上割合を増やすのは難しい気もします。でも唯一無二の武器なのでできればもっと投げてもらいたいです。何よりスプリットは手首を立てないと投げられません。藤浪投手の手首が寝てしまうという悪癖の修正にもなるのではないでしょうか。

  また、今季2軍で時々投げていたのが緩いカーブです。数年前までは1軍でも投じていましたが、ここ何年かはほとんど投げていません。藤浪投手の球種の平均球速はカットボールが約136キロ、スプリットが約145キロと高速なので、打者の目線を変えるという意味でこのカーブはとても有効だと思います。キャンプで臨時コーチを務めた山本昌氏は「良いカーブを投げられる。不振から脱出するカギになるんじゃないか」と話していました。ぜひ1軍でも投げてほしいものです。


画像2

投球フォームについて

 今年の藤浪投手はずっとフォームを探しているような印象を受けました。近年はセットポジションで投げており、昨季終盤のリリーフ登板では軸足を曲げ重心を落として動作をシンプルにするという改良をした結果、自己最速162キロの高出力とある程度の制球を両立させていました。それは19年秋と20年春のキャンプでの臨時コーチ、山本昌氏による手首を立てる練習の成果でもあったと思います。

 それで結果が出始めていたのにも関わらず、今春のキャンプでは斉藤和巳氏を彷彿とさせるようなワインドアップを取り入れました。ワインドアップの方が勢いはつけられますが、動きが多くなるため動作の再現が難しくなります。正直このニュースを見た時は不安でした。実際、やはり手首が寝るようになってしまったのか徐々に抜け球が目立ち始め、結局最終盤までフォームは固まりませんでした。

 個人的には2020年のフォームに戻してほしいのですが、藤浪投手の体のことは藤浪投手自身や首脳陣にしか分かりません。先発か中継ぎか、セットかワインドアップかに関係なく、来春のキャンプまでにベストなフォームを見つけ、そのフォームを固めてもらいたいです。

完全復活への「終わりなき旅」

 藤浪投手の登場曲はMr.Childrenの「終わりなき旅」。言わずと知れた名曲です。甲子園にこの曲が響くとファンは沸き立ち、雰囲気は一変します。それだけ魅力的な投手なのです。他にそんな雰囲気を作り出せる投手はいません。

閉ざされたドアの向こうに
新しい何かが待っていて
きっと きっとって 僕を動かしてる
いいことばかりではないさ
でも次の扉をノックしたい
もっと大きなはずの自分を探す 終わりなき旅

 2021年、開きかけたドアはまた閉ざされてしまいました。でも藤浪投手がその向こうに新しい何かを見つけ、もっと大きな存在になってくれるとファンは信じて、その終わりなき旅を応援しています。先発であれ中継ぎであれ本当に頑張ってほしいです。

 かなりの長文になってしまいましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?