見出し画像

冒険と報酬

 『ゲーム原論』でもややくどい位に扱った物語、さらにゲームバランスとの関係について閃いたのでやや補足。各種用語は、ゲーム原論を参照するか、過去のノートを参照して下さい。

 物語は物語として、ゲームとは無関係に独立した存在ではあるが、ゲームにも現れる。ここでの「ゲーム」という語は、基本的にコンピューターゲームという理解で構わない。こうしたゲームでしばしば登場する能力に優れたアイテム(ここでのアイテムというのはキャラクターを含む)の存在と、物語の文法との関係を考えてみよう。

 物語の文法というのは、典型的な物語の筋書きだ。王様などから魔王の退治を依頼され、無事に魔王を討伐し、その事によって褒美を頂く、という物だ。典型的なRPGの筋書きとしてありふれた物だろう。魔王を討伐するというのは、多くのゲームにとっての終着点になるが、その魔王討伐に至る道筋でも同様の組み立てが現われる。つまり、魔王の手下を倒し、その褒美をもらい、さらに魔王の幹部を倒す事により、その褒美をもらう、といった物だ。ここでの褒美とは、金銀財宝でも良いが、人的な宝である事も珍しくない。つまりお姫様との結婚だとか、そういった物だ。

 この辺りはゲーム原論で詳しく扱った内容だが、一度、ゲームの楽しみとアイテムの存在を振り返ろう。プレイヤーにとってのゲームが、あるいはゲームにとってのプレイヤーが存在するのは楽しみのためだ。アイテムは楽しみのために登場するのであって、義務のために存在しない。義務というのを平たく言えば、~というアイテムが必要であるから魔物を討伐する、~を入手するために魔王を討伐せねばならない、というような動機からなされるゲームへの参加だ。いわゆる作業と呼ばれるようなプレイヤーの態度も、これらに近い動機から現れる。

 こうしたプレイヤーのゲームに対する態度は、ゲームの不手際によって、あるいはゲームを商品として成立させる必要から現れる。前者の、ゲームの不手際というのはつまりクソゲーの事だ。対して、後者、ゲームを商品として成立させる必要というのは、特に開いたゲームで、クソゲーであるか傑作であるかを問わずに現れる。ゲームの中身を製作するのに必要とされる時間は、プレイヤーがゲームを遊び終える時間よりも必ず長い。この時間の差を埋めるために、攻略や完遂されるまでに時間を必要とされるコンテンツが登場するのは、避けられぬ必然だ。開いたゲームでこうした特徴を目にする機会が多いというのは、閉じたゲームではこの時間の差がプレイヤーがゲームを購入する以前に現れているためだ。雑な例えになるが、製作に5時間かかる料理があるとする。この料理がゲームだ。5時間前に製作が開始されたゲームを「今」買うのが閉じたゲームであって、3時間なり前に製作が始まって今は前菜を食べている最中である、あるいは既に一皿食べ終わり次の料理が出てくるのを待っている、というのが開いたゲームになる。ゲーム原論では、こうした理由によって構造的な必然によりプレイヤーが被るであろう(若干の)不利益を、ゲームバランスの為として擁護した。

 こうしてプレイヤーがアイテム、あるいは何かしらのアイテムを集める目的から現れるゲームへの参加は、純粋に楽しみであるから参加するというよりかは、義務的な面が強く現れる。具体的には、特定のアイテムを~個集めるというようなコンテンツだ。これが何故作業的であるというのは、プレイヤーに娯楽性的な思考があまり現れないためだ。
 娯楽性が現われないというのはプレイの最中、あるいは結果に現れる物だが、そうしたプレイに参加する動機は、義務的な物だ。

 一度、物語に立ち戻ろう。物語の主人公が報酬を受ける際に要求されるのは、魔王の討伐などといった行為が報酬のためになされていない事だ。報酬のためにそうした行為がなされるのでは、勇者ではなく傭兵だ。この両者の線引きはイメージによってなされるが、そのイメージの違いが重要だ。勇者は、無欲である必要があるとまでは言わないが、献身的である必要がある。動機が個人的な物であったとしても、利己的であってはならない。更に言えば、モノやカネが第一の目的であってはならない。少なくとも、物語がその楽しみを損ねない形で終わるためには、そうである必要がある。
 ゲームで主人公と限りなく同化するプレイヤーの内面にも、こうした物語の法則が適用可能だ。モノやカネ、つまりゲームでのアイテムがゲームの動機となってはならない。このような状況はしばしば、楽しみを遠ざける。

 アイテムの存在は、それがプレイヤーの目的として元から存在しない範囲において、確かにプレイヤーの楽しみを演出する。ただし、究極的な目標足り得ない。これが、魔王の討伐の目的がカネやモノであってはならないという意味だ。もちろん、魔王を倒すという行為に報酬が支払われる事は否定しない。努力、あるいは行為が評価されないというのは、確かにしばしば出くわす出来事ではあろうが、不当だし、何より面白くない。ここでの報酬は目に映る物、金銀財宝やお姫様ではなく、魔王が討伐されて平和になった世界そのものといった物でも良いだろう。どちらにせよ、報酬が最初から目的に据えられていない必要がある。そうした物を目的としたゲームへの参加は、必然的に作業的な物になる。

https://twitter.com/osadas5 まで、質問などお気軽に。