AIの絵について

しばらく前から世間の一部を騒がせているAIの絵とその周辺について考えてみたい。AIの絵というのはつまり、何某かのAIが生成だか出力だかなんだがして現れる絵のことを指している。AIの絵に対する反発というのは当然あるから、この反発から扱いたい。AIが出力した絵に対する反発の核は、絵そのものにある訳ではない。受け手の好みはその以前からある。つまり、絵が出力される過程や、された後の扱いにある。

生成される過程においてはまず、ネットから拾ってきた絵なり写真なり何なりを読み込んでいるわけで、そうした用途に用いられることに同意を得られたものではない。傘なり自転車を勝手に拝借しているようなものであり、そのために反発を招いている。後の問題というのは、そうした絵が商業として流通することにある。これは直接販売されるものに限らず、広告など宣伝に用いられるようなものを含める。これは、現在そうした絵を描いている層に対して競合的であり、よりにもよってその絵も元はといえば人間が描いたものであるのだから、心象は尚更悪い。これらの問題は、しばらくの間は解決されないだろう。しばらくがどの程度になるかはわからないし、そうしたAIの出力する絵が実際にどの程度まで生身の人間を代替してしまったのか(あるいは実際には大してしていなかったのか)も釈然としない。確かであるのは、非常に悪い印象のみだ。さらに、同意なき絵の学習を禁止するだとか、そうした要請をする団体だとか、そうした大きな話はまだ耳にしない。もちろん、絵を描く側の権利ないしは主張として、勝手に絵を読み込まないでくれ、というのは尤もな話だが、その権利を実際に形にするものは必要だ。
ともかく、少なくとも現段階では、AIの絵ないしはAIの出力は部分的な代替である。少なくとも商業に限っても、絵を描くことに関わる全ての人にとって脅威なのではない。本の表紙なり挿絵、ゲームのパッケージなどがAIの絵では消費者の多くは納得しないだろうから、引き続き人間が担う。しかし、例えば溢れるネット広告の類においては、AIが人間を駆逐し得る。

「人間が描いた」ことが持つ特別の意味は、いくらAIが上手く見える絵を出力できるようになったとしても消し去り難い。AIに絵を出力させている人にしても、絵を描いている訳ではない。いうなれば、機械を相手にした詩人だ

人間が描いたと見做されることに意味が残り続けるのであれば、将来的なAIの機能はより補助的な道具に収まるだろう。なんだか知らないがAIから出てきた絵は反発を招きやすいが、一定以上の人の手が加われば、人間が作ったものであるといえる。岩だか石に炭とか貝殻とか鉱物で描いたもの以外は「絵」でなの、という人は殆どいないだろう。筆だとか定規とかコンパスだとか、あるいはパレットなりの道具を用いたとして、それを道具が描いた絵であるとは思わない。いわゆるデジタルの場合には確かに、それはどうなんだ、と言われても仕方ないかな、と思える要素はある。切り取って張り付けたりだとか、拡大縮小回転だとか、こういった機能にはケチが多少はついても仕方ないのかもしれない。とはいえこうした機能を含めても、人間ではなく機械が描いたとはされていない。

話がややこしくなるとすれば、AIが補助的な役割に落ち着いたとして、ネットから勝手に画像を引っ張ってきて画像を生成するのではなく、個人の絵をひたすら学習させて、本人が程度に応じて手作業で修正するなどし、さらにそれを―といった使われ方をし、人間の描く行為の関与が非常に薄くなるような場合だろう。これは恐らく、漫画界(村ではない―あれの建前のネットに落ちている画像を拾っているだけ、という記憶がふと蘇るが)からの要請が非常に強いように思える。漫画の製作というのは重工業なり農作業なりに近い。その製作は非常に手間であるのに対して、猶予もない。効率的な手段があれば、喉から手が出るはずだ。
こうした方向性も最初は反発を招くだろうが、結局のところは現在の拡大縮小切り取り貼り付け回転などの諸機能のように、人間に属する機能として受け入れられるように思われる。これを、人間が監督している、と表現できるだろうが、監督するに必要な知識ないし技能というのは変わらずに必要であると認識されるであろう。文明というか技術というか、そうしたものの発展というのは、効率化されていく(個々人の生活そのものが楽になるかどうかまた別だ。マンモス狩りをしていた頃の方が、人間には余暇があったというし)。水道があれば水売りは要らなくなるし、ネットがあれば飛脚は要らなくなるし、車があれば馬や牛や人力車は要らなくなる。こうした意味において、絵に関しても、洞窟や珍しい鉱石なり貝殻なり何なりがなくとも描けるようになっているのだから。AIの方向性というのは、現在の横取りのようなつまらないものではなく、このように全ての人間に利益的である必要性があるはずだ。

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