ライトノベル作家の飛び込みサインについて

書店へ行くと「著者サイン入り」の本が並んでいることがある。
あれを見る度に、デビュー前の私は「かっこいい!」と思っていたものだ。

回覧板や宅配便の受け取り、転居の手続きやその他諸々以外で、”サイン”を求められる機会はほとんどない。

ところが、ライトノベル作家になると、時々そのような機会がある。
・新刊の発売
・メディアミックスが発表された際の大増刷
・サイン会
・書店への挨拶巡り

問題となるのは、四つ目の「書店への挨拶巡り」である。

「書店にサイン本が並ぶ」ことは、いいことだ。
お客さんの目に止まるし、サイン本を好んで買う人でなくても、注目されている作品だということが脳裏へすり込まれる。

しかし、だ。
「サイン本を書きたいから書店へ飛び込み営業へ行こう」という新人ライトノベル作家諸氏には、少し待って頂きたい。
サイン本にはメリットも大きい。ならば作家はこう考えるべきだ。

「何で皆、もっとサイン本を作らないんだろうか?」

理由は簡単。
書店への負担が、大きいからである。

1、陳列への負担

多くの書店は、サイン本を陳列するような配架になっていない。
日々納入される膨大なライトノベルを”捌く”のに、精一杯だ。
(余談であるが、2017年9月から2018年8月までに出版された男性向けライトノベルはおよそ1900点に上る。これは10年前の約800点と較べると驚異的な数であり、1ヶ月に158冊以上のライトノベルが出版されている計算となる)

「平台」と「面陳」と「棚挿し」の違いについて、ここでは触れない。
何となく字面から読み取って貰えると、ありがたい。
サイン本の場合「棚挿し」にはできないので、「面陳」として並べられる。
その分、他のライトノベルを並べる余地は減るわけだ。
これを良いことと捉えるか悪いことと捉えるかは作者次第だが、いずれにしても、その並べ替えをする作業が、書店員に発生する。

例外的に「サイン本が置いてあること」を売りとしている書店もある。
秋葉原書泉ブックタワーや神保町書泉グランデがそれだ。
だからといって、飛び込み営業をして良いというわけではない。

2、販売政策への負担

「それでも多くの人がサイン本を求めている」とした場合、作者が積極的に動くべきだろうか。
答えは、残念ながらNOだろう。

多くの出版社の営業は、サイン本を販売政策の重要な武器として位置づけている。
これが正解かどうかは私には判断出来ない。事実として、そうであるというだけである。

出版社の営業と書店との間でサイン本に関する取り決めが交わされ、予定された数のサイン本が納入される。
書店はその作品を注目されている作品として、良い場所に陳列する。

飛び込み営業は、この麗しい関係を破壊することになる。

作者がどれほど頑張ったとしても、日本全国津々浦々の全ての書店を回ることはできない。(日本の大都市圏のほとんどを実費でサイン会して回ったライトノベル作家さんがいらっしゃるが、例外中の例外である)

つまり何をどう頑張っても不公平が生まれることは仕方なく、それによって営業の邪魔をすることになるという残酷な話になってしまう。

なので、近くの書店と懇意にしていてサインをしに行く場合でも、必ず、 担当編集者に連絡をしてからにしよう。

3、書店への経済的負担

サイン本は、返本出来ない。
返本について日本の再販制度を語るとそれだけで本が一冊必要なので、ここでは多くを語らない。

概略すれば、書店は売れなかった本を出版取次という会社に返本することで売り場面積が小さくても常に新鮮な書籍を仕入れられるという仕組みが、 返本制度ということになる。

サインされた本は返本出来ないので、書店はそれが売れるまで永久に陳列するか、処分するしかない。これは、単純に書店への経済的な負担である。

4、書店への時間的負担

今の書店は、どこも時間が足りていない。


書店員の仕事は、入荷商品の陳列、レジ、商品補充、発注、メンテナンス、お客様からのお問い合わせ、客注商品の管理、返本など多岐に亘り、定時で全てが終わらない場合もとても多い。
販促物としてPOPその他を作ってくれているのは、全て、善意である。

そこに、飛び込みの営業としてサインを書きに行くと、どうなるか。
担当者がレジにいた場合、他の担当者が売場メンテナンスの手を止めて
代わりにレジに入り、それによって……と無限に作業のずれが発生する。

多くの人に手にとって貰いたいが故にサインをしに行くのに、読者と最も近い位置にいる書店員に迷惑を掛けるのでは、本末転倒だ。

必要なのは、アポイントメント、それも責任を取れる出版社からのものということになる。

5、最後に

ライトノベル作家に限らず、作る人間は「作って半分」「届けて半分」の、後半部分にほとんど関わることができない。
売上によって続きが出るかどうか決まるという現状では、とてもやきもきするのもうなずける。

しかし、書店に飛び込みでサインへ行く、というのは、それに適した行為なのだろうか。
もう一度考え、担当編集や、信頼出来る先輩作家、作家仲間に相談してみて欲しい。



これより下には何もありません。
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ライトノベル作家の飛び込みサインについて

蝉川夏哉/逢坂十七年蝉

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