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2022.5.28|あと一歩からの距離

B2リーグはプレーオフも含めて全日程を終え、完全にオフシーズンを迎えています。今季最後の投稿はあと一歩のところでB1昇格を逃した香川ファイブアローズと熊本ヴォルターズについて考えてみます。ん、名古屋と仙台?そんなB1チームのことなんて知らねえよ。

結果はすでにご存じの通り、熊本は名古屋に、香川は仙台にセミファイナルで敗れました。特に香川はあと1勝というところで涙を呑んだだけに悔しさもひとしおでしょう。しかし、「あと一歩」とはよく言ったもので、「あと一歩」だからこそそこに致命的な差があったのもまた事実。来季に向けてどうすべきか、そう簡単ではないかもしれません。

■熊本ヴォルターズ

他チームが羨むような若く才能に溢れた日本人選手たちを揃え、そこにジョーダン・ハミルトンとLJ.ピークを加えるという反則級の補強であからさまにB1昇格を掴みにいった熊本でしたが、名古屋の前には歯が立たず。強さを見せる時間帯もありましたが、安定感を欠く試合運びはプレーオフに入ってもなお変わりませんでした。

まあ当たり前といえば当たり前で、レギュラーシーズンでできなかったことが急にプレーオフでできるわけがない。名古屋と反対の山に入っていたら…という妄想は甘美ですが、それに浸るにはやはりホームコートアドバンテージを取れなかった自分たちの問題が邪魔をするのでした。

ではどうすればいいのか。攻撃は申し分ないため守備面の立て直しかなと思われるわけですが、レギュラーシーズンのDRtgは3位なんだよね。スティールも多いしリバウンドも強い。超強力な攻撃力が「外したら離される(追い付かれる)」という抑止力になっている側面も考えられます。ただ、プレーオフでもしばしば見られたように、熊本のディフェンスはオンボールや第一線では迫力があるものの、そこを抜けると案外脆かったり。

それでもディフェンスを整えて勝つというイメージが湧かないのは、ドナルド・ベックHCがあまり細かく精緻な戦術を駆使するイメージがないせいでしょうか。うん、確かに熊本は守り勝つより打ち勝つ方が似合っている気がする。波に乗ればどこにも負けない爆発力と、それに裏打ちされた不敵なまでの自信。ということはさらに得点力を加えてくるのかなと思っていたら、LJ.ピークが退団と聞いて驚いてしまったわけです。

ハミルトンが継続するとすれば、「2ndエース」になることが約束されたチームに来てくれる点取り屋というのは案外探すのに苦労しそう。かと言って、ハミルトンや佐々木や木田のためにせっせとスクリーンをかけてくれるビッグマンを増やすというのもなんか違う気がする。そういうのは熊本のガラじゃないんだ。現実的な線で考えるならば、生え抜きの日本人選手たちは全員継続前提で、帰化・アジア枠でインサイドを補強しつつ、ハミルトンの調子が今ひとつな時でもゲームを組み立てられるPGも欲しい、といったところでしょうか。

石川海斗にマーベル・ハリスを組み合わせた昨季に続き、今季はハミルトンとピークを組み合わせてみたわけですが、総合力で名古屋には及ばず。スペシャルなもの同士を組み合わせるのが好きな熊本ですが、果たして方針転換をするのかどうか。有力選手の組み合わせで昇格を果たすには今季の名古屋くらい徹底的にやらないとダメだということがわかってしまった以上、さらなるサプライズがあっても不思議ではありません。しかも来季は長崎とかも来るしね。果たしてどんなスターパワーの掛け算を思い描いているのでしょうか。

■香川ファイブアローズ

熊本とは対照的に、ボトムアップによってチーム力を蓄え、適切なスパイスを補強して昇格を目指そうとしたのが香川でした。エースの兒玉と大黒柱のウッドベリーによって支えられてきたチームは、日本代表にもコールアップされた谷口や、アンガス・ブラントにリース・ヴァーグといったアンセルフィッシュな外国籍選手によって一気にレベルアップ。その脇を長年在籍してきたロールプレーヤーたちが固めるという編成は、チームビルディングのお手本のよう。西地区1位でホーム開催権を勝ち取り、名古屋や熊本と別の山に入った組み合わせの妙もあり、まさしく千載一遇の昇格のチャンスを手にしていたのでした。

ところが、この対戦カードが運命のいたずら。セミファイナルで対戦した仙台89ERSの強力なバックコートディフェンスの前に、持ち前の華麗なボールムーブは封印されてしまいます。GAME1を落とし、崖っぷちの焦りからか、GAME3は自らリズムを崩して自滅してしまった感がありました。

セミファイナルで露呈した香川の弱みはプレーメーカーの少なさでした。香川のオフェンスは兒玉というMVP級のPGと、ウッドベリーの独特のリズムによるドライブが起点となります。彼らをエンジンとして動き出すために、ビッグマンはスクリーンをセットし、ウィング陣はスリーラインで合わせ、コーナーに待機してコートを広げるわけです。しかし、その起点が仙台のオンボールはもちろんタグやヘルプを巧みに駆使したディフェンスによって封じられてしまうと、3Pリーグ1位の精度を誇るシューターたちにボールが回らず、選手同士が分断されてしまいました。

数少ない起点に圧がかかることで、それに付随した動きも減ってしまう悪循環。ただ、これは香川の本来的な欠点というより、仙台の守備における特性に対して相対的に炙り出された弱点と考えることもできます。そうなるとあのトーナメントの組み合わせがアップセットを引き起こしたのかもしれず、いやはやスポーツの神様のお導きとは恐ろしい。

そんな香川のオフの動きはどうなるのでしょうか。はたから見ていると、もう1段階レベルを上げようというより、またとないチャンスを逃してしまったショックの方が尾を引きそうで、今季のメンバーを維持できるのかがまず問題になってきます。おそらくフロントは主力選手は継続前提で必死に動いているでしょうが、手中におさめかけていた昇格がすり抜けてしまったことで選手たちの気持ちがどのように変わるのか。

ただし、仮に昇格していたとしても、ベンチメンバーを含めたチーム力の底上げは必須だったはずで、その意味ではリクルートできる選手のレベルに違いは出ても、編成プランそのものには案外変更はないのかもしれません。兒玉のバックアップPG、セカンドハンドラー的にプレーメイクできるマルチスキルなウィング、中も外も器用にこなせる外国籍選手、可能ならば帰化・アジア枠も使いたい。要するに全ポジションじゃないか。輝かしい成績でレギュラーシーズンを終えたものの、プレーオフで突き付けられた厳しい現実。成功したからこそ必要な手放す勇気。ここで終わるには余りにもいいチームだからこそ、今季築いた財産を上手に活かしつつ、強い気持ちで新しいチームをつくって欲しいと思います(感想かよ)。


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