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ピアスと父と…父のピアスの穴は、わたしが開けました。

「一緒に、あけるぞ!」

そう言って、バツンとわたしの耳に穴を開けたのは、他ならぬ実の父でした。


もともとファンキーでアクティブな父。
自分が、明るい色に自宅で髪を染めたとき、
染粉が余ったからと
「なぁ、塗ってやるって!」
と言って、
今で言うインナーカラーにされたのは、
わたしが中3のときでした。
受験なんておかまいなし。
「余ってるのに勿体無いだろ?」
と笑顔で言い切り、受験を考慮して、ハーフアップの下のところを
有無を言わさずに、染め上げました。
(今で言う裾カラーというものらしいです)


ホント、ファンキーすぎる。


ピアスに目覚めたのは、父が45歳ころ
わたしが高3の時。

「いいよなぁ、ピアス。
 なぁ、1人で開けるのは怖いから、一緒に開けよう!」

カレカノか!

「えっ、やだ。
 知ってる? わたし高3。受験だし。
 一応進学校なんだけど?」

「ほら、1人で開けるのは怖いじゃん?
 痛そうだし。一緒に開けるべ!」

おい…こら待て。

「いや、受験前に先生に目をつけられたくないんだけど。めんどいじゃん。卒業してからならまだしも……」
「卒業してからならいいんだな?」
「はっ?」


そして迎えた卒業式2日前。

嬉しそうにピアッサーを4個買ってきた父がいた。
自分用2こ。
わたし用2こ。
母に相談したら止められるから、もちろん内緒。

完全にアウト!

「よし、開けよう!」
「ちょっと待て!明後日卒業式!」
「だから大丈夫だろ?」
「いやいや、最後にハメ外すとか無理でしょ?」
「絶対、今日開ける!」

言ったら聞かない父である。
中3に髪を染められたことも思い出し、わたしは早々に諦めた。

「はぁ、どうすんの?」
「書いてるべ?」
「はっ!?」
「読んで、刺せや。ほら、気が変わらないうちに」

そう言って手渡されたピアッサーは妙に軽くて、こんなもので耳に穴が開くのかと思うと不安しかなかった。

母はわざわざ耳鼻科で開けてもらうほどの怖がりだ。わたしだって、半分はその血を引いている。
それでも、父譲りの思い切りの良さもある。

「いいのね?」
「おう! 一気にやれ!」

父の耳にピアッサーをあて、ひと思いに押す。
がちゃん、という鈍い音。
思ってたよりあっさりだった。
針が肉を突き抜ける感覚なんてなく、ホチキスと変わらない。紙に刺すか、皮膚に刺すかの違いだけ。

「いてぇ……」
「もう片耳どうする?」
「やる」

あっそ、と言いながら父の耳に問答無用で刺した。

でも、わたしの耳は無事。
これで終わりかと思いきや、違ったのだ。

「なぁ、これはこれでいいのか?」

袋を開けて、スタンバイokのピアッサー片手に、満面の笑みの父。
これ、無理だね。
逃げれない。

「わたし、明後日が卒業式なんだけど」
「バレないだろ?」
「いや、あと2日くらい待てばいいじゃん?」
「衛生品?らしいから、開けたら刺せってよ」

まじで!?

固まったわたしの耳に、ピアッサーをはめ込む。
「ほら、動くな、ずれる」

いや、そもそも刺すな。
という心の声は口から出ず、
「本当にするの?」と聞くだけだった。

「もちろん!俺だけじゃ寂しいだろうが」

ナゾ理論……

「いくぞ、3…2…」

がちゃん。

「カウントダウンって怖いよなぁ。
 だから先に刺したわ!」

そういうところが大嫌いだ!

「右は自分でやるからいい!」

大きく舌打ちをしながら、父からもう一個のピアッサーを奪い取る。
なんでそういうことするかな?
意味わかんない。
わたしの意見ないじゃん。
腹立つ、腹立つ、腹立つ!

そして、その怒りに任せて自分の右耳にピアッサーを打ち込んだ。



その日はジクジクと、静かに耳が痛んだ。
父とお揃いで、お互いに開け合ったピアス。
病んでるカレカノかよ、なんて思いながら、
明日には痛みがひくことを祈って眠りに落ちた。





次の日、学校に行くと騒然としていた。

「ねぇ、どうかしたの?」
「あいつ、やらかしたの」
「やらかした?」
「ほら!」

成績上位、常連だった静かめ男子。
あと1日待てずに、すでに気分は大学デビュー戦。
華々しく茶髪にしていた。
明日が卒業式で、あの子は賞状をもらう人だったはずだ。

「あー……バカだねぇ。似合わない」
「今、職員会議だって」
「えっ、もしかして……」
「そう、持ち物検査と、身体検査」
「はっ、いまさら!?」
「まじ飛び火」

背筋が寒くなる。
まだ雪の残る3月。ただでさえ寒いのに、さらに冷えていく。
昨日開けられたピアスの穴が妙に痛かった。
だって、閉じないようにプラスチックの棒が刺さったままだ。
流石にバレたくなかったから髪は下ろしてるものの、まさかの身体検査……。



「3年生、全員体育館集合!」

怒気を抑えた先生の声が、校内アナウンスされた。




「並べ!」

そこからの説教。
寒い体育館で、もちろん立ったままだ。
反省の意味も込めて、暖房をつけることすらしてくれない。

「さすがに明日、卒業式なのに、風邪ひかせたら問題ですよ?」

進路の先生が、やっと暖房をつけてくれて、
とりあえず生徒の顔に色が戻る。



「身体検査も同時に行う!」

体育館に、怒気を抑える気がない声が響く。
マイクなしなのに、窓が震える。


女子には女の先生がついた。
これは逃げられないパターン。
父のせいでこんな、とばっちり……。
最後の最後なのに、なんだよ。

1人ずつ先生が確認する。
髪の毛、耳、インナーカラー、舌(ピアスの確認)ネイル

次々と指摘され、素直に謝る子。
怒り出す子。泣く子までいた。


次にわたしの番。
さすがに髪の毛を上げられたらバレる。

わたしの前に来て、
髪の毛を触るだけ触り、
上げるそぶりだけした先生が耳打ちしてきた。

「本当に困ったものよね。意外とこれ面倒なのよ……。上手くやってほしいわぁ」
「あと1日なのに、ホントですよね」

曖昧に相槌を打つわたし。
ぼやく先生。
そして、わたしのことはスルーする。

「何が嬉しくて、卒業生を怒らなきゃないのよ。楽しく終わりたいわ」

先生から嫌われてなくてよかった!
わたし自身、生活態度もよく過ごしてたことで、先生からの評判は悪くないのだ。見事、ピアスはスルー。感謝しかなかった。




また、ピアッサー、買おうかな……


そんなことを思い出しながら、
最近またピアスを開けようかと考える。
出産、育児の間に、使われなくなったピアスの穴は案の定、閉じてしまった。
イヤリングに変えたものの、大きいものや失くしたらイヤなものは、どうしても使えない。
風が強かったり
マフラーで外れたりするから。
マスクの紐に引っ掛けてしまって、失くしたこともある。
当時5歳の息子が作ってくれたイヤリングも、この前の冬、北海道のクリスマスイルミネーションで1こ落としてしまった。


ピアッサー、買っちゃう?


ピアッサーをネット検索しながら、父との思い出が蘇る。
まじめ過ぎたわたしに、あそびを教えてくれた父。きちんとしたいわたしを、率先してヤンキーの道に連れ込もうとする父。

その父の血もまた、
わたしには流れてて、
本気で拒絶もできず結局許してしまうのだ。

ファンキーでアクティブな父は、60を超えてもなおアクティブに生きている




ピアスの思い出はまだあるので、
また今度、描きたいなぁと思う。

絵を描くように、文字を書く。

そんな書き手になりたいと思いつつ、
なれてるかはわからないけど。
最後まで楽しんで読んでいただけたら、こんな幸せなことはないし、何よりだなぁと思うのだ。

3000文字弱、お読みいただきありがとうございました!

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