見出し画像

ミラクル

彼女は向かいの席でコーヒーを飲みながら、イヤホンをつけて何か作業をしている。

時折り目を瞑り、瞑想でもしているのか、妄想でもしているのか、はたまた仮眠をとっているのかは分からない。

彼女は自分の時間を楽しんでいるようで、僕が向ける視線に気付く様子はない。

一体何を考えているのだろう。

そんなことを思いつつ、僕は彼女とパソコンと向き合いながら淡々と仕事をこなしている。

お互い言葉を交わすことはないが、心地よい空気が流れているのは確かだ。

僕の知っている彼女はとても脆く、そして、とても強い。

ふわふわどこかに飛んでいってしまうかと思いきや、その足はしっかりと大地を踏みしめている。

妄想家だけど、現実主義。

己の中の天使と悪魔的な何者かと、いつも闘っているように見える。ゴリゴリの格闘家だ。できれば対戦相手にはなりたくない。

そして、美人だ。物理的に。

お世辞にも天真爛漫とは言えないが、たまに幼子のような屈託のない笑顔を見せる。
笑いのツボに入ると眉間に皺を寄せ、「ハ」の字に下がる眉が僕はツボだ。彼女が笑うと、つい、つられて笑ってしまう。
クールビューティーな彼女は、眉で人を笑顔にするという、実はとんでもない武器を隠し持っているのだ。

価値観がどことなく似ていて、無言の空間でも不思議と居心地が良い。
独特な空気感のある、魅力的な人。

僕らは根っからのお酒好きで「初めまして」から、打ち解けるまでに時間はかからなかった。

数年ぶりに再会した彼女は、ここ最近大好きなお酒を辞めたという。

そして、自分磨きに勤しんでいる。

共に酒を嗜むことができなくなり、少し寂しい気もしたが、歳を重ねるごとに磨きがかかっていく彼女は、シンプルに素敵だなと思った。
気の利いたセリフが言えない僕は「イイね!」と、誰もが思いつく安易なセリフを彼女にお見舞いした。

彼女の眉は、もちろん通常運転だった。乾杯。

僕は男で彼女は女で、お互いに恋愛対象は異性だけど、僕は彼女を恋愛対象として見ていない。そして彼女も同様に、僕のことを恋愛対象として見ていないのだと思う。
ちょちょいっと友情が出来上がってから、時が経つのは早いもので10年以上になる。

文章を書くことが好きな彼女に、noteをすすめてみたら、光の速さでnoteを始めたようだ。どうやら楽しんでいるようで、なんだか僕も嬉しい。今、自分がどや顔をしているのがすごく分かる。

noteに僕のことを書いたと聞いたから、僕も便乗して彼女のことを書いてみた。リスペクトを込めて。

お互いのアカウントは、知らない。
どちらからも、なんとなく聞かなかった。
だけど、この場所でもまた、偶然出会えたらいいな。そう思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?