おしえてハカセ企画のためのプロローグ

~とある居酒屋、二軒目、青年ふたり~

組 「いや、でもね、末村さんはすごい人で、たとえば末村さんにとっては当たり前のことだけど ミリ単位のずれとか、2版目以降の紙に合わせた歪みの調節とか、そういうのが目視ですぐ分かるから、おかげでヤレ紙も少なく済んでるんだよ、僕はそういう風に習ったからついモニタ見ちゃうんだけど、モニタ見てたら伝わらないことはあるんだなあ、モニタ見てねえでルーペで見ろ!  って怒られるし、それは末村さんが正しいと思うんだよ、理屈よりしっかり見るのが結局大事で、僕はそういうところをもっと吸収して良い仕事がねえ……」

縫 「うわー酔ってますねえ組木さんおれからしたらさっきからずっと同じこと言ってるようにしか思えないんすけど……。末村さんなんかさっきルーペで魚見てましたよ呑み過ぎっすよ。水飲んでくださいよほらこれ」

組 「うん、ありがとう、縫山くんはいい子だね……」

縫 「いきなりなんですか照れるじゃないですかぁ。いやーでもまだまだ知らん印刷の話めっちゃありますね〜。こういう話ねーちゃんとか好きだろうなー」

組 「お姉さん? 印刷関係だっけ?」

縫 「あーいやちがくて、組木さん同人誌てわかります?」

組 「大学の文芸部とかで作るみたいな? うちでも前は請けてたらしいけど」

縫 「まぁそういうのもあるんですけど、個人が自分のお金でだす本で、ねーちゃんとか妹もやってんすけど、なんかまんが、あのージャンプとかでやってるのとかもあるんですけど、あれ読んでわたしはこういう話だと思ったー、とかこのキャラでこういうの読みたいー! みたいなのをみんな勝手にまんがとか小説とか書いて、印刷して売るってのがあるんですよ」

組 「へえー、女の人が? デザイナーさんとか頼むの、個人で?」

縫 「男でも女でもやるんですけど、つくる人は女の人の方が多いらしいですね。頼むこともあるみたいですけど、ほとんどの人は家で全部やるみたいですよ」

組 「へえー! 家で! 個人で! イラレとかで?」

縫 「イラレ使う人もいるけど、だいたいフリーの画像編集ソフトとか、最近だとスマホでやったりとか、ワードで全部やる人もいるらしいっすね」

組 「Wordで!? Wordって文章書くソフトだよね!?」

縫 「そうですけど、なんかこうがんばって版下みたいなん作ってましたね。ねーちゃんが」

組 「イラレ使えばいいのに……いま安いのに……」

縫 「いや、さすがにそれは5年くらい前の話でいまはフリーソフトとか使ってるらしいですけど……。あっでも本文はワードでやってましたね。ねーちゃん小説かくんすよ。」

組 「まあ、Wordで小説を書くのは、正しい使い方なんじゃないかとは思うけど、画像編集をするソフトではないので、それはやめて正解だと思うけど、なんでまた画像編集をWordでやろうと思ったのかな、どんなふうになるのかちょっと見てみたいな……見せてもらったりってできるのかな?」

縫 「古いやつなんでもうないと思いますね〜。あっねーちゃんの友達ならまだそういう人いるかな? ん、てゆうか組木さん、こういう人ってわりといっぱいいるんすよ」

組 「へえー! 知らなかった!」

縫 「もちろん美大とか芸大とかデザイン専門の人もいるんすけど、それ以上に普通の文学部だったり、なんだったらお医者さんの卵だったり、事務のOLさんだったり、調理師だったり、そうだ中学生とか高校生とかも、とにかくいろんなひとがいて、みんな本作ってるんですよ。トンボも知らないところからムリヤリ」

組 「トンボも!? 印刷所に入れるんだよね!?」

縫 「最近は同人誌に特化したとこはトンボなしで刷ってくれるらしいんですよ。そんなひとがめっちゃいっぱいいて、どんどん本作ってるんですよ。だからですね、そういう人にさっきの組木さんがわめいてたような印刷の話をしてあげたり、疑問に答えてあげたりしたらですね、なんかこうモテと金の匂いがしませんか!?」

組 「いやモテはどうでもいいけど……いや、でも、いまウェブサイトがどんどんメインになってて、印刷物の需要って減ってるでしょう、だからそういう、趣味で作ってる人がたくさんいるっていうのは、なんか、いい話だねえ」

縫 「そうでしょそうでしょ〜。で、同人誌ってそういうトンボもなくて刷れるようになってる代わりに全部パックなんですよ。ご一緒にポテトもいかがですか~って感じで。せいぜい箔押しとかがドリンクがバニラシェイクにできますよーって感じで。だからそういう人にほんとはこういう仕組みでこうやったらかっこいいだよ! とかこういう使い方もできるよ! っていうの、すげーいいと思うんですよ!」

組 「なるほどなあ、セットかあ……」

縫 「組木さんなら印刷のこと分かってるからセットの中でも最適なの選べると思うんですけど、その中でもみんな悩むんですよね。知らないから。そういう人たちに色々、言葉は悪いですけど吹き込んでいけばこの世にもっと面白い本がいっぱい増えて、みんなもっと印刷に身近になって、加工所とかも潤うと思うんですよね!」

組 「あー! それは大事なことだね! 加工所がなくなるのは本当にさびしい! 本当にさびしいんだよ縫山くん! いい職人さんが次世代に技術を伝えられないんだよー!」

縫 「そうでしょ~! 同人誌って一人一人は100部とからしいんですけど、それやる人が三万人とかいるらしいですから、そういう人たちがもうちょっと印刷に興味出せばなんか、こう、世の中変わりそうじゃないですか?!」

組 「へえー! すごい! 三万人かあー! 小さめの市だねー!」

縫 「みんながめっちゃ刷る小さめの市ですよ! とりあえずおれねーちゃんとか妹とかなんかおたくの知り合いに悩んでることないか聞いてきますから! お答えしましょ!! 組木博士やりましょ!!!」

組 「えっ、でもそれ僕みたいなぺーぺーで大丈夫? みんなにちゃんとお伝えできるかな」

縫 「いやー組木さんがいいと思いますよ。いまの話だってわかってくれたじゃないですか。うちのじじさまたちに同人誌っていうのがあって〜とか言ってもなんか昔の文芸の本みたいなんしか思わないでしょ。ホトトギスとかか? ってなるでしょ?!」

組 「まあ、うん……そうか……僕でいいなら頑張りますね……縫山くんも頑張ってね」

縫 「おれはメイン情報収集でがんばりますから! 組木博士のお答えにかかってますからね! この話は!!! あと解らないオタク用語とかあったらどんどん聞いてくださいね。バッチリ解説しますよ~! 伊達にねーちゃんと妹と彼女に揉まれてないですからね……まぁ……あいつとは別れましたけど……。あっこれはどうでもいい話なんで忘れてください」

組 「もう一杯飲んでいいよ……」

縫 「ウッ……おれがむしろしんどいわ! なんだよ……! すみません……。酔鯨ください」

縫 「まぁとにかくそういうことで! がんばりましょう!!組木博士!!」

組 「博士かあ……頑張りましょうね、縫山くん」

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