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言葉という重荷をおろしきった先の。


ひとりで行ったカラオケの帰り
変電所の脇をとぼとぼ歩いた
歌で精魂を出しきってしまって
少し汗をかいたシャツが
風で冷えた

ひとりで行ったカラオケボックス
ひとりで居るはずなのに
「比較」から逃れられない場所

自分ひとりで歌っていても
曲と曲の合間の沈黙
壁越し
誰かの歌声が聞こえて
心の中で採点している自分がいる

だから
喉を潰してしまうのだ
ひとりの部屋なのに少し格好つけて
声を張るから

それは
とてもメタファーだった

言葉でできた世界なんて
「ふれあい」という言葉が一番死んでる

格好ばかりで
自分でも何が言いたいのか
わからなくなっている人は多い
なのに「聞かれている」という意識ばかり過剰で
みんな喉を潰している

静寂が許容できない
部屋に他人の声が流れ込んでくる
だから言葉を発して雑念を打ち消す
それが
生きていくための安心の
すべてになっちゃって

冬の夕暮れが
言葉で埋め立てられてゆく

言葉が溢れすぎたいま
言葉は人を温めるだろうか
言葉は人を包むものだろうか

むしろ
言葉という重荷をおろしきった先の
静寂の中に
心の平穏はあるのでは

嫌というほど歌ったよ
嫌というほど
誰にも届かない歌を叫んで

虚脱した心が
「本当は静寂を欲していたんだよ」と
訴えかけてくる

風で
汗が冷めてく



#詩 #のようなもの