街宣車

すごい爆音で軍歌が聞こえる

団地の前の駐車場を恐る恐る
ベランダから覗き込むと

街宣車が止まって

足の悪い叔父が足を引きずりながら
団地の入り口に入るところでした

何が起こってるのか
何が起こるのか

静まり返る家の中に

玄関のドアを蹴る音が響きます

叔父の怒号
玄関を蹴る音
鍵のかかってるドアノブを激しくまわす音

その中に母の声が聞こえました

「お姉ちゃん、ちよこを部屋の奥に!ドアは閉めなさい!何があっても出てきたらだめよ!」

お母さんの言葉が終わる前に
姉は私の手をとり
姉と私の共同の部屋に
私を足早に連れて行きます

その時に

「お父さん!!」

と母の声が聞こえました。

唯一の部屋の隅、ふすまと箪笥のある角に
背中をくっつける体制で
三角座りをしたら
姉が私の手を取り私の耳を塞ぐように持っていき
その手の上から姉が手を重ね
声が聞こえないようにしてくれました

真っ暗の部屋の中
怖くて目をつぶり
耳を塞いでいても

ふすまがずっと揺れているのと
空気を震えさせる怒号の嵐
それが何を意味してるのかは
子供心にわかりました

私の手に重ねている姉の手が
ガタガタと震えだし
耳から外れ
母と叔父の大声が聞こえます

そっと目を開けて
姉の顔をみると
泣いていました

見てはいけないような気がして
ずっと自分の膝や
私の寝相の悪さで破れた
ふすまを見ていました

しばらくすると

「出ててきていいよ」

と母の優しい声。

叔父はおらず
変わりに私と兄の部屋以外はめちゃくちゃにされていました

そして父が

押し入れから出てきたのです。

どーゆーこと?


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