見出し画像

久々のトラウマみんなのうた『森の小さなレストラン』のざっくり考察

NHK「みんなのうた」で2023年4月〜5月に放送されていた楽曲に、手嶌葵さんの『森の小さなレストラン』がある。

手嶌さんの鈴が転がるような可愛らしいお声に合ったメルヘンな曲調なのだが……。

「空っぽのポッケを弄って、忘れた人から辿り着く」
「たらふく食べたらお眠りよ」からの「デザートはありません」
「お墓の中まで届けましょう」

所々の歌詞に引っ掛かかり、聴くたびに考え込んでしまうのだ。これはもしや、久々のトラウマ曲では? せっかくなのでここに記しておきたい。


あなたのトラウマはどの曲?

ま〜〜ぁ、NHKみんなのうたはトラウマ曲製造の常習犯である。私が幼い頃から(あるいはそれよりも前から)、”みんな”と冠すには少々刺激の強い音楽を放送することで有名だ。
せっかくなので、ここでちらっと過去を振り返ってみよう。

諫山実生『月のワルツ』

例えば諫山実生さんの『月のワルツ』は、無表情なフランス人形やタキシード姿のウサギなど、幻想的でちょっぴり恐ろしい雰囲気が印象に残っていた。

谷口浩子『まっくら森のうた』

谷口浩子さんの『まっくら森のうた』は世代的にもっと古いが、何かの再放送で見てかなり衝撃を受けた(映像付きだとなお良し)。

だが、歳を重ねて改めて聞くと、とても厚みがあり優しい曲だなとも思うのだ。

ひかりの中で 見えないものが
闇の中に うかんで見える

この冒頭の歌詞に何度救われたことか。当時のトラウマが実は勇気付けてくれる曲になっていた、ということもある。ぜひ聴いてみてほしい。

大貫妙子『メトロポリタン美術館』

これも世代としてはもっと古いのだが、夏休みの再放送か何かで見た気がする。(あるいはインターネットだったか)

今聴いても「ハァ!?」と半ギレで聴き終わる。
「タイムトラベルは楽し メトロポリタンミュージアム♪」
と朗らかに歌わせておいて、ラストの仕打ちはないだろうよと思うのである。

椎名林檎『りんごのうた』

著名なアーティストも続々登場するみんなのうた。私は中学生の頃より椎名林檎氏のヘビーファンだが、子どもの頃から「りんごのうた」を無意識に偏愛していた。

短調のもの悲しげな旋律に、名前の分からないりんご……。言語化しづらい哀愁に身悶えたものだ。怖いという感情ではないが、あとから知る知恵の実としてのりんご、「あなたのおっしゃる通りのりんごです」に出てくるあなたとは? などと考察が捗ること捗ること。
トラウマではないが、あれが椎名林檎英才教育だと考えると、私の人生に大きな爪痕を残した楽曲だ。

ま、いろいろとすごいNHK

今始まった話ではないが、ともかくNHKはすごい。
最近なら湘南乃風の『君に』という曲の映像に数多くのマッチョが登場し、楽曲に集中できない仕様になっている。しかも映像を手がけたのはポプテピで知られる映像作家さんとのこと。まあそういうことよ。

毛色は違うが、森の小さなレストランと同時期に放送されていた『ぷかぷか』は、青春群像劇のようなファンタジーテイストの映像だが、登場人物の性別がわからないように描かれており、年季の入ったオタク女としては妄想が捗るのである。

……などとつらつら書いてきたが、とりあえずみんなのうたは結構面白い。これ以上書くとただの老人会になってしまうので、一旦筆を置いて本編に戻ろう。続きはツイッターで。

ネットでも一部界隈が盛りあがっていた

さて、手嶌葵さんの『森の小さなレストラン』は、予想通りネットの一部界隈をざわつかせていた。
考察には「注文の多い料理店を思い出した」などの意見も多く、なるほどねと頷く読者も多いはずだ。

検索窓のサジェストも「森の小さなレストラン 怖い」が表示されるくらいだし、これは近年における国民的トラウマ楽曲の誕生である。


ご覧なさい、こういうことです

筆者は最期の晩餐楽曲なのかなと思っている

こういった作品の考察は、考察しているという行為に豊かさがあり、意味があるため、正解を導くなど野暮である。これらの考えを則り、以下筆者の妄想を書き連ねる。(ぜひ再生ボタンを押してから読んでみてね)

私はこれを「最期の晩餐楽曲」だと思っている。
というのも『デザートはありません』、からの『お墓の中まで〜』、すなわち迷い込んだ主人公の死を想起させる歌詞である。なぜデザートが出なかった、デザートが出されない状況で息絶えることになったのか。 捕食者の「デザート」になったからという解釈もできるが、それだったら『届けましょう』は不適切な気もするのだ。

なんとなく紐づいたのは『甘き死』という言葉。仮に主人公が森で遭難し、絶望的な状況で生を諦めざるを得ない状況だったとすると、この森の小さなレストランは最高の最期の晩餐だ。そして甘い死を以てして幕を閉じる…と。 (映像では口が閉じて閉幕という演出なので、おそらく食べられたのでは)

余談ではあるが、甘き死といって思い出すのが、旧劇エヴァの『Komm, süsser Tod』(甘き死よ、来たれ)。あれはまた別の意味合いの死ではあるが、頭をよぎった人も少なくないはず。

なんにせよ森の小さなレストランはすごい。
仮に曲では森というシチュエーションだが、現代社会や個人の問題にも置き換えられるし、これを踏まえたときの……と、おっと誰かがきたようだ。これ以上の深読みはやめておこう。これも一説でしかないし、語ってしまうと野暮だからね。

結論、この曲を午前10時50分に流すNHK、あんたはすごい。みんな聴いて。

参考文献