ザ・バットマン/ペンギン・ビギンズ

以下、映画「ザ・バットマン」の重篤なネタバレが含まれます。御用とお急ぎの方、不用意なネタバレをした者に対しては頭の皮を剥ぐという所存の方は読むのをお控えください。

さて。こんでええやろ。特になにっちゅうタイミングでもないんやけど、ザ・バットマンを劇場で観たんやった。

簡単なあらすじとしては「犯罪者に過剰な暴力をふるい、対象が犯罪者なだけでやってることはヴィランみたいな生まれて間もないバットマンがリドラーによる連続殺人の調査を通して自分や過去と向き合い、人間的にもヒーロー的にも成長する物語」っちゅう感じやねん。

全編暗く重苦しいビジュアル、俳優陣の抑えた演技、複雑なストーリーラインが終盤で収束していく見事さ。実にいい映画やった。2時間56分の長尺やねんけど、個人的にはそれで過不足ない感じ。あと、おっちゃんの膀胱はようがんばった。冗談抜きに、この映画観た日は朝から取水制限して臨んだんよ。おっちゃんいう生き物はスキあらばこういう正気を疑うほどどうでもいい自分語りを繰り出したいんよ。

本作のメインヴィランはもちろんリドラー。

犯行現場にクイズを残すのが特徴で、従来のハテナ柄の緑の全身タイツに派手なメガネという面白キャラな恰好からはデザイン一新。緑のガスマスクめいたフルフェイスのマスクに緑のコートとカーゴパンツというシリアスな外見。ああ、そういえばヴィランとしてはペンギンも出るよ。

っちゅう売り出しのされ方をしてたんやけど、いや、ペンギンもやったで。メインのヴィラン。リドラーより全然出番多かったし、活躍の場面も多くて目立ってた。

っちゅうても、ちょっと注意せなあかんのは、今作のペンギンはまだゴッサムの裏社会で部下を率いる大物犯罪者やのうて、どちらかというと本名の「コブルポット」色が強い。妙な装備もないし、顔に傷の多いただのオッサンやし、ヴィランとしては無名や。
そもそもマフィアの所有するナイトクラブの(おそらく雇われの)経営者で、従業員と雇い主であるマフィアとの間の中間管理職的な立場やねん。

で、年齢的には中年の終わり、あるいは初老くらいなんやけど、いかにも裏社会の底辺から裸一貫、苦労を重ねて実力でのし上がって中間管理職まで上り詰めたっちゅうかんじがプンプンしてるアクの強いキャラなんよ。

それだけのことはあって、とにかくもうしぶとい。いきなりナイトクラブに現われた狂犬みたいなバットマンを如才なくあしらうし、従業員には端的な指示を飛ばすし、リアル寄りなせいで余計に生々しく暴力的なバットモービル相手に普通の車でカーチェイスしていい勝負するし、殺しても死なんようなオッサンの典型やねん。「どんな問題が起こっても対処したらぁ! こちとらそれでここまで来たんじゃ!」っちゅう覚悟に満ちたオッサンやねん。
それでいてカーチェイスで一瞬バットモービルを「やったか!?」ってなったときには「よっしゃ! やった! ざまぁ見ぃ!」って感じで一人はしゃいだりもするオッサンやねん。(なお、やってない)

バットマンが現れてからそれまで築きあげてきたもんがどんどんメタメタになってくのに、まったくめげない。むしろ逆境になるほど闘志を燃やす姿とか、そらもう「がんばれがんばれ!ペンギンがんばれ!」よ。応援したなるやん。

要所要所で出てくる湿っぽいリドラーよりも、こっちのほうがよっぽどギラついてて印象が強い。リドラーもリドラーでもちろんその悲しみと狂気、知性、逆境に抗って人生を切り開いて、それが「とある事実」によって折れてしまったっちゅう悲劇性がポール・ダノの演技によってみごとに表されていて素晴らしいキャラクターなんやけど、ペンギンの存在感に少し食われてた部分は正直あった気がする。

ストーリー的には中盤の終わりごろ、ペンギンの上にいるマフィアのボスが退場すんねやけど、その辺りの描写を観ていると、どうもその後にペンギンが混乱に乗じてその組織を乗っ取ったんちゃうかな、と予感させる部分があって、それが後に大物犯罪者「ペンギン」になる基盤になったんちゃうかなぁ、とおっちゃんは想像してるんよ。

そんなわけで特に公式にはフィーチャーされてへんねんけど、「ザ・バットマン」は密かに“コブルポット”っちゅう脂っこくしぶといオッサンが大物ヴィラン“ペンギン”への第一歩を踏み出す「ペンギン・ビギンズ」でもあったんちゃうか。そう思うんよ。

そういえば終盤に捕まったリドラーが隣の房におったジョーカーに声をかけられて、そこに理解者と慰めを見出して「友達」になるんやけど、過去作の全身タイツでキテレツなハイテンションキャラは時系列的に今作の後やから、もしかしたらこれは「悪い友達の影響」っちゅうヤツなのかもしれへんなぁ。従来作と今作のリドラーが違い過ぎるっちゅうミッシングリンクつないでもうたんちゃうかこれ? 知らんけど。

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