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[今週のおすすめ本] 学びとは何か

3行サマリー

  • 記憶と知識の違いは、役に立つかどうか

  • 熟達者はその場の認識力と知識の引き出しが自動化された人

  • 生きた知識は、知識をいかに使うかという手続き的知識とセットで脳内保管される

学び直しが叫ばれる昨今、学びとはなにか?を知っておくことは、良い学び探究者になるために、大前提必要な知識ではないでしょうか。本書は、認知科学の領域から、学びとは何か、について専門的ながら平易な言葉で解説している、入門書的新書です。

記憶と知識の違いは、役に立つかどうか

本書では、「チンパンジーのアユム」と「棋士」の記憶について比較されている。どちらも驚異的な記憶力の持ち主だが、記憶の特徴が異なる。

アユムは、一瞬の間に表示される9桁の数字を覚えることができ、全く間違えずに画面にうつる数字をタッチし、それを再現することができる能力を持っているチンパンジーでした。同じことを人間で試すと、時間を2倍4倍と増やしても、同じ量を記憶することはできませんでした。

一方、将棋のプロ棋士は、10秒以内に局面を記憶してそれを盤上に再現できる記憶力を持ち合わせています。同じことを初心者でためすと、その10倍位以上の時間がかかると言います。しかし面白いのが、盤面に適当に並べただけの駒を記憶するのは、プロ棋士も初心者もそう時間が変わらないと言います。これは、プロ棋士は脳内に保管されている莫大な量の盤面の記憶から、今目の前にある盤面と似たものを引っ張り出してきて、それを再現す流能力に長けている、ということでした。

アユムの場合は単なる意味のない数字を並べる記憶力、ですがプロ棋士が見せた記憶力は必要な記憶を必要な場面で引っ張り出せる「知識」として保管していることになります。

熟達者はその場の認識力と知識の引き出しが自動化された人

熟達とは、膨大な経験から物事の類似性を見出し、先を予測して臨機応変に対応できる人のことを指します。もっとも有名なエリクソンの定義には、初心者・一人前・中堅・熟達の4つのレベルがあり、事態の予測や直感的分析に優れ正しい判断ができる人、のことを熟達者と表現しています。

さらに本書では、熟達者がなぜ事態の予測や直感的分析に優れているのかを解説しています。熟達者は、膨大な経験の中から類似性を見出し、知識として脳に格納することで、目の前の状況に当てはまるデータを膨大なデータベースから引き出すことで、その場を正確に認識できる。

つまり熟達には、多くの経験が必要なことにくわえ、そこから何を学んだのか自分なりに言語化をし、引き出せる知識として格納するプロセスが必要だということになる。

生きた知識は、知識をいかに使うかという手続き的し知識とセット

生きた知識は、単に事実を知っているという知識ではなく、それがどう使うかという手続きまでも一緒になった知識のことをいう。学習科学的にいえば「可搬性」「活用性」があるということ。可搬性とは習った場面(研修や本の中)以外に、実践の場でその知識を思い出すことができる、というもの。活用性とは、思い出せたとしてもそれを正しく使えるかどうか、というもの。

その他面白かった内容

「人間の記憶は、左右される」
上の図を見せて、その図の横にそれぞれ、C・三日月というワードを添えて被験者に見せる。被験者に、図を思い出して書いてみて、というそそれぞれ二段目の図を書くという。Cと添えられた場合は、Cっぽく書き、三日月と添えられた場合は、三日月っぽく書く。

人間の記憶って簡単に歪められるんだな…と思った事例だ。
バイアスには気をつけたい。

今井むつみ研究室 認知の心理 第1回 認知心理学とは(1)


Take away

最近の悩みは、研修でインプットしたことが現場で実践されない、研修転移が起きない、ということ。本書にある、生きた知識に変換するには、手続き的知識もセット。というのがヒントになった。

インプットしたことを、実践してきてください〜で翌週振り返るではまだまだぬるっちい。総合問題として、どの知識をつかったらいいのかわからない状況から、過去の記憶を引っ張り出して、状況に埋め込むことで、使える生きた知識になるのだ、と改めて強く感じた。

具体的には、ケースワークを通じて知識をひっぱりだすドリル的な経験や、参加者自身から問題を挙げてもらい学んだことを使ってどう解決するのかより実践に近づけた反復練習の場を作ってみようと思う。


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