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もはやメディア事業ではなくて地域創造カンパニー〜さんいん中央テレビ・田部社長インタビュー(後編)

(画像:TSKグループWEBサイトより)

さんいん中央テレビ田部社長へのインタビュー、後編をお届けする。(前編はこちら)

前編では社長就任までと就任後の改革などを聞いた。社員お二人のインタビューからすごい人物を想像していたが、その想像を超えた方だった。後編では途中で話についていけなくなりそうになるので、みなさんも振り落とされないようお読みいただきたい。なお話の中で「TSKグループ」という言葉が出てくるが、さんいん中央テレビは略称TSK(当初の社名テレビ島根が由来)と呼ばれており、テレビ局を中心にした企業グループのことだ。

放送収入を30%に下げるのが目標

※以下、「」内は田部氏の発言

---今後のビジョンも伺いたいのですが、『かまいたちの掟』が人気番組になったり、ACDの事業も面白いし未来があると思いますが、 一方で放送収入が激減している中で、どのように今後の会社を運営されていくのでしょうか。
「うちは今、グループ全体で200億ぐらいですから、実は放送外収入は、完璧なんです。」

---え?200億ですか!
「TSKグループで200億円。放送収入は 35億ぐらいだから、もうすでに大きな比率ではないんです。」

---えー!そうなんですか!
「TSK単体の売上が45億で放送外収入が10億あるので、本業の放送収入は35億。それを単体で30%にしたい。」

---ええええ!
「この間立てた中期経営計画では、単体の売り上げ目標が100億円。日本はずっとお金をキャッシュアウトしてきました。1番顕著なのは、食料自給率。いわゆるカロリーベースで39%、つまり6割は海外から買っている。エネルギー自給率は11%パーセントしかない。買ってきたプルトニウムも自給率と換算してるんで、実質的にはおそらく数%。エネルギーは90%以上海外に依存してる。ですからずっと、お金を払い続けてきたわけです。」

---(このあたりで筆者は話についていけなくなりそうになっている)
「地方も同じ構図で都会に労働力を出している。例えば、 出雲に来られるお客様の航空券は6万から7万円する。10万円の 予算で旅行するとして飛行機で7万円取られ、県外資本のホテルに泊まると2万円はかかって合計9万円なくなる。地元に落ちるお金が1万円しかない。出雲大社でお守りやお札を買うと手残りは数千円しかない。地元に落ちるお金が数千円。東京一極集中のおかげで、お金が全部東京に流れていって、その東京に流れたお金が海外に出ている。 言ってみれば穴があいた器なんです。ずっとお金が漏れてる。それをなんとかしなきゃいけないと打ち立てた僕らの中期経営計画のビジョンが、100億キャッシュイン。100億を我々がキャッシュで稼いで地元に還流させる。要するに、外貨を取って、地元に還流させる計画です。単体で100億円の売り上げを作って、放送収入は30パーセントにする計画を今立てています。」

これからはメディア・地域・教育を3本柱に

---(ここでようやく話が理解できてきて)ACDへの出資もその一環なんですね。
「そうです、中国からお金を持ってくる。あとはホテルを2つぐらい買ってます。これも県外資本のホテルを我々が買えば、そこに落ちる収入の一部は我々に戻ってくる。出雲空港は年間100万人も利用者がいるんです。島根県の人口は66万人だけど100万人の飛行機の利用があり、出雲大社には300万人が来ている。外から人は来てるのに、その方々がお金を地元に落としていない。地元のお金が我々のグループに入ってくれば、我々は地元で再投資をして戻せます。いまTSKでやってる事業は町づくり、地域づくり事業です。社員たちにも言ってるのが、TSKはもはやメディア事業ではなくて地域創造カンパニー。空き家対策や町の再開発事業もやってますし、観光事業もホテル事業もやります。これから自分たちの事業の3本柱は、1本はメディアコンテンツ事業、もう1つは地元還流事業。そしてもう1つは、教育事業をやろうと思ってます。」

考えたことを次々言葉にして話す。時についていくのが大変だ

---教育事業はどんな考え方で?
「日本の教育はあまり良くないと私は思ってまして、日本人が日本人たる教育をきちっとやらなきゃいけない。今の教育では日本人の感受性が全く育たない。例えば、日本人なのに着物が着れない、お茶の飲み方を知らない、 風呂敷を包めない、百人一首も知らない。おかしくないですか。」

---言われてみるとそうかもしれないですね。
「もっとダメなのが歴史教育。島根に住んでる人が、島根の歴史を知らない。松江に住んでる人たちが、松江城の城主が誰だったか言えない。出雲大社の神様の名前がわからない。そんなことあり得ない。日本のナショナリズムを破壊してきた中で、そういった教育をきちっとできる土壌を島根に作ろう。最終的には学校を作ってもいいかなと思っています。県外から、サマースクールやウィークエンドスクールで東京から来ていただいて、これも外から人を呼び込んでいきたい。島根で教育をして、戻ってからはその人たちとの繋がりの中で、我々が作った農産品などを定期的に買っていただく。その模様を番組にして、コンテンツとして活用する。さっきの3本柱が20億ずつで60億、今の既存の事業で40億で、足して100億を目標にした計画を、この4月からやり始めてます。」

同じ業界の人とばかりつきあうな

---最近ローカル局のみなさんが地域創生に取り組まなきゃと始めてる話は聞きますが、もう始まってるのが驚きです。
「少し前からやってきました。地域を盛り上げるのが我々の使命だし、我々のグループがやらなければ、他になかなかできないだろうと。そのためには、主導する私が、できるだけ頭を柔らかく、自由な発想力を持っていかなきゃいけない。だから心がけているのは、あまり同じ業界の人たちとばかり付き合わないことです。社員にも言ってます。同じ業界の人も重要だけど、その人たちだけと付き合うなと。できるだけ違う業界の人たちともご飯を食べろと。私も夜の予定は毎晩入ってまして、家でご飯食べるのが月に1日か2日ぐらい。ありがたいことに2、3か月先まで埋まっていて、いろんな人とお会いしていろんな情報を得て、それによって事業が生まれている。」

---メディアは村社会とよく言われます。
「そう思います。守られた業界で、競合も少ないし新規参入がない。その中で生きてきた人たちが、新しいネタをひねり出すのは中々、困難だと思います。私は実家の事業も含めてあらゆる事業をやってますので、その中でいろんな知見と人脈がこの10年でいっぱいできてます。その人脈の中で使えるネタは、100あったら1つあるかないかの世界です。だからとにかく、ネタをたくさん拾ってくるのが仕事なんです。」

---ご自身でそのネタを素に事業を作ってるんですね?
「日本はなんかこう、現場を大切にして下から上げていく文化じゃないですか。それでは銅メダリストが出てきても、金メダリストは出ない。上意下達でトップダウンでやらないと新規事業は進まない。うちは超垂直落下型組織ですね。でも僕のこういうイズムが今の30〜40代の社員たちに伝わって育ってきており、その辺の塊に次を任せてもいいと考えています。」

訪ねた先は青山一丁目駅からほど近いマンションだった

地方では、テレビの優位性はあと20年残る

---もう1つ伺いたいのは、今ローカル局の皆さん大変そうな中で、再編が現実的に動く気がしています。ひょっとしたら田部社長は山陰や中国地方全体の中での再編はお考えになってないでしょうか。
「どうでしょう。国が考えることだし、ラジオが先だと思いますが。あるとしたらラジオが先で、テレビはその後でしょう。歩みは遅いでしょうけれども、将来的には例えば4波あるところを3波にするとか、3波あるところを2波にするのは、やっぱり必要じゃないかなと思いますけどね。」

---私もそう思います。
「その時にどう地域性を担保していくか。やっぱり地域でメディア事業は非常に重要で、地銀と同じぐらい重要だと思っています。銀行だけではできないし、 我々メディアだけでもできないので、一緒になってやらないとなかなか難しいでしょう。とにかく地方のテレビ局の役割は、これからもっと重要だと思いますね。」

---先ほどの今後のビジョンも地域のために働く事業を作って、その中の一部が放送。だけど大事だということでしょうか。
「はい、放送は大事です。インターネットメディアももちろんすごいですが、同時多発的に情報発信するには、まだテレビの方が優位性があります。特に地方はテレビの優位性がまだ残っていてあと20年はそれを保つと思います。その間に、地域ビジネスを確立しないと危ない。我々としては2度と、本業をダメにしてはならないと思っています。」


私は、いま話を聞いている相手が戦国時代の武将であるような錯覚を覚えた。織田信長のような、新しい攻撃のやり方を考えているタイプ。家を守り領土を増やす。視野が大きく、先を見つめている。戦国武将は大袈裟にしても、田部氏が実業家なのは間違いない。メディア経営者を超えたスケールで物事を考えている。そして地域に対する使命感を忘れない。
日本のテレビ局は、特に経営者は、田部氏に学ぶべきではないか。田部氏よりずっと年上の経営者の皆さんが、素直な気持ちでこの記事を読んでもらえればの話だが。


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