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Vol.3 「マイスペース」のある公共交通の変化

 今回のコロナ禍によって価値が高まったものの代表的な1つが「マイスペース」だろう。とりわけ移動に「密」を避けることが難しい大都市では、移動における「マイスペース」の確保がより貴重と言える。だからこそ、Vol.1~2で見てきたように「& コミュニティサイクル」が新しい生活様式を具体化するための現実的なアクションとなっていると思う。
 しかしVol.2でも述べたように、生活圏の広い東京で自転車だけで通勤が完結する人が多くないことも事実である。したがって、公共交通そのものの「マイスペース」の確保も今後、東京の交通を語る上での重大テーマとなるのではないか。
 「マイスペース」のある公共交通の代表例は、JRや私鉄が運行している座席指定制の通勤ライナーである。東京・大阪の大都市圏ではここ5年間だけでもこのような座席指定制の通勤電車が次々と誕生している。また下表以外にも京急・快特の「ウィングシート」やJR西日本・新快速の「Aシート」など、一般列車の一部を座席指定で提供するサービスも直近5年間で増えている。

■直近5年間に登場した大都市圏の座席指定列車画像1

 一方で東京圏ではメジャーではないものの、一部の地域では通勤手段として手堅い存在になっているのが高速バスである。通勤向けの高速バスは、東京圏の中では特に千葉方面で発達している。代表的なのはアクアラインを介した木更津・袖ヶ浦・君津方面の高速バスで、こちらは朝通勤時間帯では地下鉄並みの本数が確保されている。次いで新浦安・千葉・佐倉方面の高速バスで、こちらは主に鉄道駅からは離れた住宅街をカバーしている。また本数は少ないが、神奈川方面の田園都市線沿線にも、同じく鉄道駅から離れた住宅街をカバーする高速バスは運行されている。

■首都圏の代表的な通勤向け高速バス画像2

 しかしこれまで東京圏の通勤の足としては例外的な存在だった高速バスが、コロナ禍による通勤需要の分散化と「マイスペース」ニーズの拡大化で、今後増加するのではないかと考える。その可能性を考える事例として、韓国・ソウル首都圏の「Mバス」を取り上げたい。
 「Mバス」は主にソウル市内と首都圏のベッドタウンを結ぶ広域急行バスのことで、運行本数が少ない路線でも1日30便(平均30分間隔)、多い路線だと1日170便(平均5分間隔)で運行されている。

■京畿循環バス・Mバス統合体系図(https://axellion.tistory.com/1より)画像3

※ソウル首都圏の広域急行バスには、ソウル市内とベッドタウンを結ぶ「Mバス」と、外郭環状道路(高速道路)を介して郊外都市間を結ぶ「外郭循環バス」の大きく2種類がある。

■外郭循環バスの様子(前面の左下に残席数の表示あり)画像4

 このバスが一般的な路線バスと異なるのは、事前予約ではない座席定員制となっている点で、ICカードのタッチでバス内の残り座席数を管理している。バスの前面に残り座席数が表示されるほか、バスロケーションシステムを使ってあらかじめ残り座席数を確認することもできる。したがって残り座席数を確認して、座席がない場合は他のルートを選ぶこともできる。

■Mバス路線の各車両の位置と空席数情報(http://www.gbis.go.krより)画像5

 コロナ禍をきっかけに、鉄道と同じくらいか少し高い運賃で、着席前提で利用できる高速バスが、東京圏でも新たな通勤手段として定着する可能性もあるのではないか。
 さらに鉄道では実現が難しいよりきめ細かいニーズへの対応するため、「女性専用車両」ならぬ「女性専用バス」「子連れ専用バス」の運行や、「Mバス」のように各車両の残り座席数をリアルタイムに把握できることを応用して、時間帯や座席の空き数に応じた「ダイナミックプライシング(価格変動)」を取り入れたバスも考えられるだろう。

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