見出し画像

Vol.2 電車とバスは「遠く速く」に特化か?

 コロナによって電車とバスをはじめとした公共交通は、「感染リスクがあるから、できれば乗りたくない乗り物」になってしまった。しかし全ての交通需要を、電車とバスを抜きにまかなうことは不可能だろう。そこで何が起きるかと言えば、電車とバス以外でも代替できる交通需要が少なくなり、電車とバスでないとまかなえない交通需要により特化されていくということである。具体的には、新幹線や特急・高速バスは少しずつ需要が回復していく一方で、自家用車や自転車と競合する在来線やローカル線・路面電車等は、コロナ禍で需要がなかなか回復しないことが想定される。

 さらにコミュニティサイクル・シェアサイクルの発達は、上記の傾向をより助長するのではないか。自宅等にある私物の自転車を使う場合、原則として往復ともに自転車に乗る必要があったが、コミュニティサイクルは片道だけの利用を可能するとともに乗車地・降車地の制約をなくした。特にコミュニティサイクルを電車やバスと組み合わせて利用する場合、電車やバスと乗り換える地点の選択肢が格段に広がることになる。そうするとコミュニティサイクルから電車・バスに乗り換える地点は急行停車駅や始発駅などに集中していくことになるだろう。

 具体的な例を見ていきたい。以下は、2017年に発表された港区街づくり支援部交通対策担当による港区コミュニティサイクルの利用状況に関する資料である。この資料の中ほどに掲載されている『ポート利用ランキング』を見ると、1位が品川駅港南口の至近にある「こうなん星の公園(6,095回)」、3位が新橋駅烏森口の至近にある「新橋プラザビル(2,661回)」となっている。また、「平日利用経路ランキング」を見ると1位が「こうなん星の公園→港南緑水公園(1,961回)」、2位が1位の逆区間である「港南緑水公園→こうなん星の公園(1,734回)」、5位が「新橋プラザビル→虎ノ門ヒルズ(585回)」、8位が「虎ノ門ヒルズ→新橋プラザビル(517回)」となっている。
 すなわち一大ターミナルである品川駅や新橋駅から、少し離れた場所にある需要地(港南地区の高層マンションや虎ノ門地区のオフィス街など)への移動にコミュニティサイクルが盛んに利用されていることが伺える。

図表1:港区のコミュニティサイクルのポート利用・経路ランキング(2017年1月実績・https://www.mlit.go.jp/common/001181102.pdfより)

図1

 次に別の切り口ではあるが、大田区の自転車駐車場(定期利用)の抽選倍率のデータである。現状、大田区では自転車駐車場の定期利用の希望者が全員、利用可能なキャパシティがないため、抽選で利用できる人を絞り込んでいる。古いデータになってしまうが、平成27年度に特に抽選倍率が高かったのは洗足池・蒲田・西馬込となっている。
 申込数がキャパシティに対して3~6倍の倍率になっているということは、自転車駐車場を確保できなかったことで、通勤・通学の経路を変えざるをえなかった人々も一定数いることが想定される。しかしコミュニティサイクルが利用できることで、代替の選択肢となる可能性もある。例えば現在、西馬込駅の近くでは「馬込西公園」「大田区立龍子記念館」にサイクルポートがあるが、もし駅周辺でのサイクルポートがより充実すれば、西側では池上線を使っていた人々、東側ではバスで大森駅に出ていた人々が、始発駅である西馬込駅からの地下鉄利用にシフトする可能性もあるだろう。

図表2:平成27年度の大田区営自転車等駐車場の定期利用の申込状況(抽選倍率上位5つを抜粋・http://machi.jpubb.com/press/546510/より)

図表2

 以上のように、電車・バス・シェアサイクル・自転車の利用割合や使い方が変わる素地はもともとあったが、それがコロナ禍によって加速するのではないかと考える。自転車やシェアサイクルが「密」を回避するために需要が増える可能性がある一方で、自転車と競合する在来線やローカル線・路面電車等が担う範囲が狭くなる可能性がある
 次回は、既存の電車・バスの新たな進化を、「マイスペース」に注目して考えていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?