見出し画像

Vol.1 「働き方改革」で瓦解していく定期券

 電車の通勤定期券は、会社によって多少の差があるものの、割引率は50%程度。つまり元を取るためには、月に15日程度(週3~4日程度)は往復利用することが必要である。したがって、週の半分だけ出社、残り半分はリモートワークという形では定期券は得にはならない。改めて考えればこの通勤定期券そのものが、「平日は毎日、家と会社を往復する前提で設計された昭和のライフスタイル」前提の乗車券であることがここからも伺える。
 加えて、東京の街そのものが面的に大きく拡がっており、会社への往復だけでなく、取引先への立ち寄りやプライベート利用まで含めれば、「線」の区間を定期券で持つだけではカバーしきれなくなっているのが実態ではないか。加えてJRも私鉄も相互直通運転が拡大しており、目的地まで異なるルートを状況によって使い分けるニーズがさらに拡大している。
 従来、定期券は利用者を囲い込む役割を果たしてきたと思うし、その役割は今後もある程度は残るものの、(1)出勤抑制・(2)目的地の多様化・(3)ルートの多様化のトリプルパンチで、従来型の定期券の存在意義は薄れている。コロナ禍をきっかけに、よく使う街を面的におさえることが可能で、期間・利用回数なども柔軟に設定できる新たな定期券を検討する時が来たのではないだろうか。
 ここでは、その検討の参考になりそうな3つの事例を取り上げたい。

(事例1)京王電鉄 どっちーも
 「どっちーも」は、京王が新宿・渋谷の2つのターミナルに乗り入れる強みを生かし、どちらかのターミナルと沿線間の定期券に、月プラス1,000円でもう片方の副都心との往復も可能にするオプションを付けた定期券である。
 この定期券があれば、京王の沿線に自宅があって、行きは新宿に出るけど、帰りは渋谷から帰ることが多い人なども、自宅~新宿/渋谷の間は京王線に囲い込むことができる。
https://www.keio.co.jp/campaign/teiki/index.html
(事例2)JR東日本 品川~鶴見間を含む定期券
 一般的な定期券では出発地と目的地の駅以外に、出発地~目的地の間にある駅でも自由に乗り降りができるが、出発地~目的地の間のルートは1つしか認められていない。しかし、このJR東日本の品川~鶴見間を含む定期券だけは例外である。
 例えば品川~横浜の定期券を持っており、実際に使っているのが東海道線の場合でも、すぐ脇を走っている京浜東北線の各駅で乗り降りができるのはもちろん、東海道線から相当離れた横須賀線の新川崎・武蔵小杉・西大井の各駅でも追加料金なしで乗り降りができる。
https://xckb.hatenablog.com/entry/2017/06/04/005742
(事例3)東急電鉄 電車+バス・自転車・映画・駅そばのサブスクリプション
 東急が2020年3月から実証実験を始める予定だったサービス(現在はコロナの影響で中断中)で、東急線全線・東急バス全線の1ヵ月間乗り放題乗車券を基本とし、電動のレンタルサイクルや映画観放題パス・そば定額パスをオプションで付けられるというものである。
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200115-1.pdf

 もう1つ考えなければならないのは、多くの会社が通勤定期券の代金を通勤手当として非課税で支給している点である。今後、在宅勤務の割合を増やした働き方が一般的になっていくと、会社によっては通勤手当の支給の在り方が根本的に見直されるかもしれない。業務での立ち寄りの際の交通費は、自己申告をして実費精算というケースが多いが、通勤の交通費についても同様に、実際に通った分だけ実費精算になることが想定される。そうなってくると、あとはプライベートなどで交通機関を利用する分も加味して、定期券やサブスクリプションの利用した方が得になるのか、という判断となるだろう。

 私事で恐縮だが、私の自宅からは池上線の千鳥町・池上が最も近く、次いで東急多摩川線の武蔵新田・下丸子も徒歩圏内である。ただ、通勤では東急バスの池上警察署からバスに乗って、西馬込駅から都営浅草線を使っていた。職場へは東西線の神楽坂駅から徒歩が基本だが、コミュニティサイクルがサブスクリプションなので、これを使うことが多い。帰りは西馬込駅からバスを使わずコミュニティサイクルを使い、途中のスーパーで買い物をしてから帰ることが多い。
 したがって、コミュニティサイクルのサブスクリプションは別途継続する前提で、あとは池上線・東急多摩川線・東急バスの品川区・大田区内がセットになったサブスクリプションが登場してくれないかと願いたいところだが…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?