食べたい物をと言われても・・・食事がすすまない時にできること


〈どんなことに悩んで解決してきたか〉その7

家族が入院して食事が進まないと、病院から「食べたい物を持参していいですよ」と言われることがあります。色々考えて持ち込んだ好物も食べなかった方が、家に帰ったら、トマトや、ちょっとびっくりしますがカレースープを食べてくれたということがありました。

その方は肺の病気で、在宅酸素を使っていたので、口の中が常に乾いて出血していました。病棟でも口腔ケアといって、口の中をスポンジや潤すジェルできれいにしますが、退院してから家族はこまめに口腔ケアをして、食べることができる口になりました。食べられるようになると思えない体力でしたから、家族に拍手です。私たち看護師は、信じられない事実に、何を食べたか聞くことが楽しみになりました。

ドラッグストアで商品名は色々ありますが、口腔ケアジェルを買うことができます。汚れを浮かせてぬぐい取りやすくするという優れものです。汚れを落としたら、保湿のため塗ると更に効果があります。

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食べたい物と言って顔が思い浮かぶ方は、寿司や鰻などの好物なら食べられました。炭酸飲料が飲みたいという人もけっこうあります。水の代わりに氷やシャーベット、好きな味の果汁などを製氷皿で凍らせて、とることも多いです。プリンやヨーグルトは定番のお勧めですが、少しずつ溶けて食べられるアイスも、食事がすすまない時にはカロリーもとれてお勧めです。

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食べるタイミングは、しっかり起きている時に「食べたい」と言ってくれる時が一番安心です。ぼんやり起きている時に、家族の食べて欲しい思いで口に運ぶと、むせて食べられなくて、かえって苦しい思いをすることになります。本人も家族もがっかり、大きな落胆になっては残念です。
起きていてもむせる時は、とろみをつけると、ゆっくりのみ込めるので安全です。

できることの1つとして、お伝えしたいのは、環境も大切だということ。

口の環境:食べる量が減ると、唾液が減って口の中が乾きます。そうなると、味もよくわからないし、力をふり絞って「ごっくん」する感じになって、しんどいばかりです。これでは、ますます食べたくなくなります。
口腔ケア以外に、ガムや飴も、噛んだり、なめたりすることで唾液が出ます。

口の周りを大きく動かすことや、大きな声で唇や舌を使う言葉(パ・タ・カ・ラ)を繰り返す。パのつく言葉・例えばパンダ、タのつく言葉・例えばタヌキ・・・を言ってもらう。
動画を参照してください。


他にも、食事の前に、あごにある唾液腺を、外からマッサージすることでも唾液が増えて食べやすくなります。


食事の環境:家族が一緒だと食事が進んだ人もいます。「このコップならのむ」という器があった方もいます。
他に姿勢も注意したいところです。座れるのであれば、椅子に座って、腰や膝を90度になるようにして背筋を伸ばす。ベッドに寝ているのなら、ベッドの頭側を上げて、あごを引いた姿勢だとのみ込みやすくなります。やってみるとわかりますが、あごを上げてのみ込むのは大変です。
勉強会などでは、のみこみに問題がない参加者は、水を口に含んで、天井を向いて、のみ込んでみることを体験します。とても難しいです。

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介護している側が、姿勢の悪いまま口に食べ物を運んでしまったことで、肺炎を起こしてしまうことがあるんです。どれも数分でできることですが、その数分をつくるのが難しい。それでも、誤嚥で苦しまない、苦しめないために、たかが数分、されど数分、結果を信じてください。

環境を整えるのって、家族など食事に関わる人の協力がないと成り立ちません。

食べる喜びは食べる人も、食べて欲しい人も、みんなで共有したい思いです。

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