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新作漫画遭遇記 第三回 『ミューズの真髄』 ジャンル:人間ドラマ

(画像は文野紋『ミューズの真髄』一巻表紙から)

こんばんわ。
新作漫画を紹介する連載、新作漫画遭遇第三回は

文野紋『ミューズの真髄』

をご紹介します。

(第二回はこちら)

前回に続き、今回も完結済み(全三巻)作品の紹介となります。
本当は連載時に紹介したいのですが、やはり評判となり私がコミックスを手に取るまではそれなりのロスタイムが生じてしまうのでなかなか難しいです。

ということで、紹介に移ります。
『ミューズの真髄』一巻のネタバレがありますので、未読の方はお気をつけください。

なお、ネタバレ範囲については短い作品ですので一巻のみに留め、二巻・三巻は排除します。


あらすじ

(第一話)

かつて美大を目指していた主人公・美優はすっかり社会人になっていた。
飲み会へ向かう最中、美優はホームレスから指輪を買う。会で、同期の男性社員・鍋島に指輪を褒めてもらい舞い上がる美優。同期の女性社員から陰口を叩かれるものの、「わかってる人」鍋島の存在を頼りにやり過ごし、二人は食事に出かける。
しかし、鍋島に連れて行かれた先はホテルのベッドだった。ベッド上、美優はとうとうと美大に落ちた経緯を話し始め、鍋島に理解を求める。だが、待っていたのは自身と指輪をどちらも「偽物」と形容する拒絶の言葉だった。
絶望を抱え家に帰ると、自室には美優が出社前久々に張ったキャンバスを破壊しようとする母の姿があった。
母は「絵を描きたい」という美優の頬を叩き「変な事言い出さないで」と返答。口論の末、美優は「母さんといると私をつまらなくしてしまう」と言い放ち、キャンバスを背に背負って窓から飛び出す。
そうして、美優の第二の人生が始まったのだった。


作品の魅力

まず目に付くところからいきますが、この文野先生、絵が非常に上手です。
それもただ絵が上手いというより表現が上手く、デフォルメと写実感との融合・演出によるデフォルメ度合いの変化などが見事に実現されており、漫画的な巧みさも併せ持っていると言えるでしょう。

だからこそ効果的だと感じる手法の一つが、「静かなところで話がしたい」と鍋島を誘った直後に胸がはだけている演出です。

読者が「デフォルメチックだから描かないだろう」と想定する領域を簡単に飛び越えてくる。

意表を突かれる、飛び道具的な生々しいシーンの使い方だと感じました。
また、この世にデフォルメを逆手に取って残酷なシーンを描く漫画というのは数多く存在しますが、そういう事ではなく生々しい現実も世界観の一部と淡々と進むのも良い。

美優が取り乱すでも叫ぶでもなくくらーい瞳でとうとうと身の上話を始めるシーンが素晴らしいですよね。緩急・ハッタリが効いています。

そして、なんといっても素晴らしいのはコンプレックスの描き方
まず、主人公・美優は美大に落ちたこと、そして自身の絵が下手なことに物凄く大きなコンプレックスを持っていて、そこが中心となって話が進んでいくわけです。

だというのに、あまり暗い感じがしない

嫌なもの、後ろ暗いものとして描かれてはいるのですがどこか爽やかさすら感じる作風が魅力的です。
ただ暗い一辺倒ではなくそうした明るさを持ってコンプレックスというテーマを掘り下げている点がこの作品の特徴だと言えるでしょう。

個人的に一番好きなお話は一巻の後半、鍋島の回想。
彼はモデルを目指しており、母親におだてられ、それに浮かれ高いジャケットを買うのですが、身長が全く足らずモデルにはなれず仕舞いに終わってしまいます。
しかも最悪なことに、同級生は同じジャケットを買っていてモデルに受かるのです。

それが明らかになるのが新幹線に乗るため同級生達に合流するシーンなのですが、自信が浮かれていることに気が付いた彼がジャケットをロッカーに仕舞い込み

「服装ミスったわ!」

と笑いながら誤魔化すシーンが哀しく、とてもお気に入りです。

彼もまた、コンプレックスに悩まされるキャラクターの一人という事です。

そういったキャラクターのある種グロテスクな面をデフォルメがかった絵で表現している。
明るさをもって掘り下げている。
それが本作最大の魅力です。

もしそういった人間ドラマの描き方に興味があるのであれば、ぜひ本書を手に取っていただきたいところです。

あとこれは本編の内容とは若干異なるのですが、この漫画、異常に紙が良い
恐らく文野先生のこだわりなのだろうと思います。
表紙の発色が抜群なのはもちろんのこと、捲って一番最初に出てくるタイトルが書かれたページがざらざらした紙になっていてたまりません。
以上の理由から、買う時はぜひ紙の本を手に取って欲しいです。

全三巻なのでとても買いやすいですよ!買いましょう!


あとがき

この作品に出会ったのもまた、池袋ジュンク堂地下の漫画コーナーでした。ジュンク堂は(多分書店員が)売りたいちょっとマイナーな漫画のコーナーがしっかり作られており、そこで一話だけ読めるようにカバーが掛けられた本作を読んだのです。
なぜ一話はネットで配信されているのにコロナが叫ばれるご時世そんな他人が触っていることの明らかなものを触るのかというと、ひとえに地下だからネットに繋がっていないという問題のせいです。ただ、そのおかげで本屋気分を強く味わえるのも確かで、こういった紙で映える本を発見するのに役立つ効果もあるわけです。
やはり、漫画コーナーでこの漫画は異彩を放っていました。吸い込まれるように試し読みを始め、想像以上のお話のうまさにやられた、という感じです。あの紙を捲るワクワク感みたいなものは何にも代え難いものですから、何度も言いますが紙で手に取って欲しいです。
さて、第三回ということで形式は第二回に則って書いてみました。早速、記事タイトルでのジャンル表示の難しさを実感しています。強いていうなら人間ドラマだとは思うのですが、実際のところ色んな要素がありますので……。
そしてこれは抱負なのですが、連載企画と銘打っている以上、何とか月一での更新を目指したいと思っています。
できるかは分かりません!漫画とは、巡り合いなので!


ここまで読んでいただいてありがとうございます。


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