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新作漫画遭遇記 第二回 『みなそこにて』 ジャンル:ホラー


(画像は冬虫カイコ『みなそこにて』一巻表紙から)


こんばんわ。
久しぶりの更新、そして第一回から七ヶ月以上が経過しもう二度と動かないかと思っていた連載企画の第二弾としての更新になります。

(↓第一回)



今一度本企画を簡潔にまとめると

「連載中または完結後一年以内の漫画」 


をフューチャーしてその魅力をお伝えする企画になります。

ルールにはないので努力義務ですが、一応「三年以内に連載開始」というのも念頭に入れています。
例えば『ゴルゴ13』『ガラスの仮面』は連載していますが、連載中だからと言ってさすがに新作として取り上げません。そういうことです。

諸注意として、第一話のネタバレを含みます(一話以外の内容は意図的に排除しています)。作品の魅力を伝えるための措置ですのでご容赦ください。

さて、今回取り上げる漫画はさる8月17日に完結第三巻(最終巻)の発売を迎えたWEBアクション連載作

『みなそこにて』冬虫カイコ

です。

今回はこの作品をフューチャーしていきます。


あらすじ

(第一話)
女子高生・一花は母の再婚により人魚伝説の残るとある田舎町へ引っ越すことになる。
母を待たず祖母の家に転がり込む一花とその妹。一見何の変哲もない田舎町のようだったが、そこに住む人々はみな一花の黒とは違う明るい瞳をしていた。
町の高校に通いつつ、どこかその住人たちと馴染めず、母を恋しく思う一花。そんなところに、明るい髪と明るい瞳をした女子高生・千年が現れる。
行く先々に現れる千年。社会科見学のある日、どこで知ったのか「(一花の)お母さんは妊娠してるからもう迎えには来ないね」と語りだす千年。泣き崩れる一花。
二人が話しているその場所とは、ダムの上だった。
「こっちへおいで」という千年にいざなわれ、ダムに落ちる一花。
明くる日、一花の瞳の色は明るいものに変わっていた。その頃には、一花はすっかり町へ馴染んでいた。


作品の魅力

この作品の魅力はといえば、やはり
「田舎町の質感と蝕まれるようなじわじわしたホラーの感」
でしょう。

まず、この作品は田舎の描き方が抜群に上手い
第一話の大きな街からやってきて田舎に馴染めない一花の描き方からして素晴らしいものがあります。

田舎特有の閉鎖的なところ、みんなが一つの常識を共有していてそれが当たり前と思っているところ、しかしそこに決して悪意はないこところなどが巧みに描写されています。

リアリティのある田舎を描く巧みな技に加え、自身の人格すら徐々に飲み込まれていくという

「外堀から埋まっていくタイプのホラーテイスト」 


が見事に展開されています。心情描写も緻密です。

ホラー作品にも人怖だとか怪物ものだとか色々ありますが、この作品には「明確な敵役」がいない。

いわば、味方がいつのまにか全員敵というゾンビパニック的なホラーが展開されています。

例えばミステリアスな少女として、作品のキーマンとして千年の存在がありますが、彼女は別にこちらを脅かしてくるようなことはしません。
むしろ、歓迎している。

「それが一番怖い!」

と言いたくなるのがまさにこの作品の妙味ですね。


この作品は形態として『ブラック・ジャック』のような一話完結形式をとっていることも一つの特徴です。

千年は『みなそこにて』の物語を紐解いていく際に重要な人物にはなっていくのですが彼女が主人公という感じは薄く、狂言回しという感覚です。

また、帯で"ガールミーツガール"を称する通り、千年と少女(ら)との関係性もつぶさに描かれています。

各話にゲスト主人公を迎え、それぞれの物語を緻密に描きオチを付けているという点もまた素晴らしく、長い連載でないことを強みに変えている例だと言えるでしょう。

全体としてはやはりほんのりホラー色、そして伝奇もの要素が強いように思えます。
ホラーとしては特に第三話の構成が素晴らしいので、ホラーを求める方には是非とも読んでいただきたいところです。


終わりに

この作品と出会ったのは偶然でした。
毎月自分に課している「池袋ジュンク堂本店地下一階漫画コーナーで知らない漫画を三巻以上買う」という縛りで「なにこのタイトル!?『皆其処にて』と『水底にて』のダブルミーニング!?クールすぎ!買っちゃお!」というモチベーションで購入したのがこの作品です。
作者の冬虫カイコ先生は過去に相当異色かつハイレベルな短編を出しており、満を辞しての連載作が当作品なのですが、そんなことは知るよしもなく。ただただ偶然手に取った一冊の完成度に驚いていました。

それから2年が経ち、この度完結を迎えられたことをめでたく思います。できることなら最終巻発売前に記事をまとめておきたかったというのが本音ですが…!
まあしかし、タイミング的には完結記念になって良かったのかなとも思います。
とにかく、皆さんネットで無料公開されている範囲を読んでみてください。この記事で少し興味を持った、という方がいれば、必ずやその世界観に目を見張ることでしょう。繰り返し「巧妙な描き方」と言っているのも理解していただけるかと思います。

ということで、今回の連載は冬虫カイコ先生で『みなそこにて』でした!


ここまでお読みいただきありがとうございます!


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