東北生活保護利用支援ネットワークが秋田市の生活保護費過支給の問題について声明を出しました

東北生活保護利用支援ネットワークは2024年4月10日付けで「秋田市による生活保護費返還請求に関する声明」を出しました。

秋田市による生活保護費返還請求に関する声明

1 はじめに
秋田市が、精神障害者保健福祉手帳の2級以上を有する世帯に対して支給していた障害者加算について、福祉事務所の過誤によって過払いが生じたとして、過去5年分に遡って返還請求を行うことを示唆している。この過誤払い自体は1995年から28年間にわたって続いたもので、返還を求めた5年間分に限っても約8100万円に上るとされている。
2 障害者加算の概要
生活保護制度における障害者加算は、身体障害者障害程度等級表(以下「等級表」という。)又は国民年金法施行令の等級に基づいて支給することとされている。等級表の1級若しくは2級又は障害年金1級に該当する障害がある場合は2万6810円(1級地)から2万2310円(入院患者又は社会福祉施設若しくは介護施設の入所者)、等級表の3級若しくは障害年金2級に該当する障害のある場合は1万7870円(1級地)から1万4870円(入院患者又は社会福祉施設若しくは介護施設の入所者)の保護費が追加で支給される。これらは、「障害により最低生活を営むのに健常者に比してより多くの費用を必要とする」(「生活保護手帳別冊問答集2023年度版」186頁)ことを理由として、保護費に加算をするものである。
この障害の程度の認定は、身体障害者手帳、国民年金証書、特別児童扶養手当証書又は福祉手当認定通知書によって行うが、それらを有していない場合には、福祉事務所が指定する医師の診断書その他障害の程度が確認できる書類によって認定することができる。精神障害の場合には、精神障害者保健福祉手帳が「その他障害の程度が確認できる書類」にあたり、これによって認定ができるが、原則として障害年金の等級によって障害の程度の判定を行い、裁定請求が行われている間は精神障害者保健福祉手帳の等級による程度の判定ができるとされている。一方、年金に加入していない又は障害年金受給のための納付要件を満たしていない場合は、精神障害者保健福祉手帳によって認定を行うこととされている。
3 現行制度を前提にした場合の本件の問題点
本件において、実際に過誤払いがあったとしても、それは福祉事務所が保護利用者の年金の受給権を確認せずに精神障害者保健福祉手帳の等級のみで障害者加算を認定し、その後、障害年金の申請をしたところ障害状態が3級以下と裁定された件について生じたものと考えられる。
 このような過誤払いは、福祉事務所のミスによるものであって、福祉事務所ひいては秋田市の責任は極めて重大である。返還を求められた利用者は、現在も保護を利用している者がほとんどと推測されるが、返還の原資は毎月の生活保護費である。そこから返還をすることになれば、その月の生活において最低限度の生活を割り込む事態になることについて、秋田市は真摯に考えるべきである。
 保護費の過誤払いについて、東京地判平成29年2月1日賃金と社会保障1680号33頁は、「処分行政庁側の過誤を被保護者である原告の負担に転嫁する一面を持つことは否定できず,本件過支給費用の返還額の決定に当たっては,損害の公平な分担という見地から,上記の過誤に係る職員に対する損害賠償請求権の成否やこれを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否についての検討が不可欠である」と述べた上で、そのような検討を欠いたことを理由として処分を取り消している。
 本件でも、秋田市がそのような検討を行うことなく、全てを保護利用者の負担に帰す形で返還を求めたのだとすれば取り消されなければならない。
4 検証の必要性
さらに、こういった多額の事務処理の誤りを発生させたことについて、第三者による検証も行われなければならない。
例えば、東京都国立市は2013年から2018年にかけて、不適正な事務処理から支給漏れ(42世帯、約170万円)や過支給(132世帯、約4600万円)を発生させた事案について、国立市生活保護業務適正化に関する調査検証委員会を設置し、その答申を踏まえて運用の改善を図った。同市に限らず、不適切な事務処理等があった自治体がその検証を踏まえて運用を改善した例は多い。秋田市においても、同様の検証を行い、再発防止と今後の運用改善を図っていくべきである。
5 結論
よって当会は秋田市に対し、①保護費の返還を請求している対象及び金額の精査を行うこと、②福祉事務所のミスによって生じた過誤払いについては真摯に反省して返還請求を撤回するか、少なくとも自立更生費を幅広く認め、返還額から控除する姿勢を見せること、③事実を解明し、再発を防止と今後の運用改善を図るために第三者による検証を行うことを求める。

2024年(令和6年)4月10日
東北生活保護利用支援ネットワーク
共同代表 鈴木裕美(弁護士)、早坂智佳子(司法書士)

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