大工さんのきょうだい弟子

お寺には当時7人くらいの人が住まわれていた。

そこへ、私が訪れたのとほぼ同時期に、一人の男性がやってきた。


40代後半くらいだろうか、ネルシャツに分厚いメガネをかけた、一見細身ながら、かなり体格のいい男性で、どうやら職業は大工さんらしい。

大工さんは、気が付くと頭を丸坊主にされた。

私たちは、同じタイミングでお寺にやってきたけれど、おしゃべりをしないという言いつけを守り、ほとんど言葉を交わすことなく数ヶ月共に修行に励んだ。

非常にまじめな雰囲気がひしひしと感じられ、かたい印象すらただよう方だったが、とても繊細な心の持ち主であることに気付くには、時間はかからなかった。

かたさにおいては、私も同等で、二人して傷付いた心を持て余していたのだと思う。いつも不安気におどおどしゃべる、そんな手のかかる大人二人の話を、方丈様は、個別に何度も聴いてくださり、ていねいに世話してくださった。

初めて感じるそのお慈悲に触れて、私たちは、少しずつ元気を取り戻した。

しばらく経ったある日のこと、皆でお経を読む大広間に、大工さんが一人ぽつんと座り、お経を唱えていたかと思うと、おうおうと泣き出し、そのままおうおうとお経を唱え続けている場面に遭遇してしまった。

ふすまの影にいた私はそこから姿を出すことが出来ず、仕方なくゆっくりと部屋へ引き返した。







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