何が見えてたの?

僕には19歳の娘がいます。
この話しは娘が3,4歳の頃の話しです。

私の家は築50年の古い3LDKのマンションで、
間取りは玄関を開けると左側にはトイレとバスルーム、右側には4.5畳ほどの私の部屋、その隣に娘の部屋、そして12畳ほどのリビングダイニングになっています。

娘は人形遊びが好きで、いつもリビングで遊んでいました。

僕は、映像関係の仕事をしていたので会社が休みの日も自宅の自分の部屋で仕事をしているのが当たり前の日々でした。

そんなある日の休日、
自分の部屋で仕事を終え、
リビングで遊んでいる娘のそばに近づいていくと、
娘は僕の顔を見るなり、突然泣き出しました。

「どうしたの?」

そう言いながら、娘を抱きかかえると
娘はさらに泣き出し、体を反って僕の手から逃れ
キッチンにいる妻の足にしがみつき
僕の顔をにらむように見つめながら号泣していました。

それは、一度だけではなく
月に2,3回ほどありました。

「あなたの顔が怖いからよ」

妻はそう言って笑っていましたが、
僕は、それがあってから
何が原因なのかわからないこともあって、
娘に近づくのが怖くなっていきました。

この頃、娘はたまに、自分部屋で遊んでいると
号泣しながら飛び出してくることもありました。

そして、娘が一人で遊んでいるはずの部屋から
娘の話し声と笑い声が聞こえてくることもあり

これはもしかしたら、
僕と妻には見えない誰かがいるのでは?と思い、
ある日娘に聞いてみることにしました。

「誰か遊びに来てるの?」と僕
「あっちゃん」と娘
「あっちゃん?あっちゃんてだれ?」
「…」

僕も妻も、あっちゃんという子は知りません。

娘が言うには、あっちゃんは女の子でベランダから入ってきて
娘と遊んだらまたベランダから出ていくそうです。

僕と妻は、これは娘が妄想の中で造りあげた架空の友達だろう…ぐらいの気持ちでいました。

その日から仕事から家に帰って来ると
妻が今日はあっちゃんが来てたみたいだよとか、
来なかったみたいだよとか、
そんな話をするようになりました。

娘が小学校を卒業する頃には、
僕も妻もその話題をしなくなり、
たまに、思い出したように
娘にあっちゃんのことを聞いても、

「誰それ?覚えてないし」

って言う返答が帰ってくるだけでした。

子供の頃は、大人に見えないものが見えると
都市伝説的に聞いたことがありますが、
きっと娘もそれなのかな?って思うぐらいで、
家族みんなも忘れていました。

娘が、中学を卒業したある日、

なにげに、

「そういえばお前さ、小さい頃にお父さんの顔を見るなり号泣したの覚えてる?あれスゲーショックだったんだよ」と聞いてみると、娘は見ていたスマフォから顔を上げて僕の顔をじーっと見つめてから、

「覚えてるよ」と一言

「えっ、あのときなんであんなに泣いたの?
お父さんスゲーショックでさ…なんで?」

そう僕があまりにしつこく聞くと娘はこう言いました。

「だってさ、あの頃、お父さんが自分の部屋からでて来ると、お父さんの後に怖い人がついて来るんだもん」

「えっ!⁉ なにそれ」

「なんか、黒いマントみたいなの羽織って、白い顔で…」

「マジで!それ、死神みたいじゃん!」

僕は自分の背後振り返りながらそう言うと、
娘は言いました。

「いや、死神みたいじゃなくて…
お笑いの鉄拳みたいな…顔のおじさん」

19歳になった娘は、もう
あっちゃんも鉄拳も見ていないそうです。

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