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飲み友達のハライチ/絶対に終電を逃さない女【連載エッセイ「わたしとラジオと」】

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インスタグラマーや作家、漫画家などどさまざまなジャンルで活躍するクリエイターにラジオとの出会いや、印象的なエピソードをしたためてもらうこの企画。第二回は様々な媒体でエッセイをなどを執筆されているライターの絶対に終電を逃さない女さん。


正直言って、ラジオなんて時代遅れのメディアだと思っていた。平成7年生まれの私にとって身近なメディアといえばテレビかインターネットで、ラジオというと父が「子供の頃、ラジオで矢沢永吉を聴いてファンクラブに入った」と話していたり、テレビでタレントが「ラジオで流れる曲を録音するのって大変だったのよ」などと語っていたりするような、「昭和の文化」というイメージが強かったのだ。

大人になってから、同世代でも好んでラジオを聴いている人はたくさんいることを知ったが、今さら手を出す気にはなれず、好きなミュージシャンや俳優が出ている番組をたまに聴く程度だった。そんな私がある番組を毎週聴くようになったのは、ごく最近のことである。

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絶対に終電を逃さない女さんが実際にラジオを聴いているスマートフォン

友人が絶賛していたことで興味を持って買ってみた、ハライチ・岩井勇気の『僕の人生には事件が起きない』。平坦な日常の小さな起伏を捉える鋭い観察眼と表現力に度肝を抜かれた。暮らしの中の些細な出来事をこれだけ面白く書けたらネタが尽きなくていいだろうなと、同じくエッセイを書いてお金をもらっている者としては、参考にしたくなる一冊でもある。調べてみると、同書に書かれたエピソードの多くはラジオ『ハライチのターン!』のフリートークで披露された話が元になっているらしい。周囲にもリスナーが多く気になっていた同番組。これは聴くしかないと、久々にradikoを起動したのだった。

それまでは時々深夜ラジオを聴いても、内輪ノリの寒さを感じたり話に着いていけなかったりで馴染めなかった私だが、『ハライチのターン!』はそうした違和感や疑問がほとんどなく自然に話が入ってきて、随所でクスッと笑い、気付けば1時間が過ぎ、終わる頃にはどこかホッとしたような、懐かしいような気分になっていた。

これは何だろう。定評通り、固定のコーナーすらなく内輪ノリが薄いのは確かだ。岩井の独特の着眼点とユーモアセンスはフリートークでも冴え渡っている。それでいて無理に盛り上げようとしている感がなく、良い意味で芸人芸人していない語り口。もちろん文章には文章の味わいがあるが、澤部のツッコミやリアクションにつられて、エッセイで読むよりも笑える。お笑い芸人あるいは有名人ならではのエピソードもある一方で、誰にでも起こるような日常の出来事の話も多い。

そんなトークを聞きながら、心の中で「あ~わかる」「確かにそれあるかも」などと相槌を打っているうちに、まるで居酒屋で友達の話を聞いて一緒に笑っているような気分に包まれているのだ。
数多くいるリスナーの1人ではなく、対等な友達としてその場にいるような錯覚。毎回きちんとオチが付いていて間違いなくプロの話術でありながら、そんな親近感を兼ね備えている。
居酒屋で語り笑い合うことができなくなったコロナ禍の深夜、『ハライチのターン!』は私の孤独を癒してくれる。「また来週」「また」という2人の声に安心して眠りにつく。今やハライチは、私の週一の飲み友達なのである。


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絶対に終電を逃さない女/ライター。1995年生まれ、早稲田大学卒業。様々な媒体でエッセイを中心に執筆をしている。『GINZA』(マガジンハウス)Web版にて『シティガール未満』、『TOKION』(TOKION)Web版にて『東京青春朝焼恋物語』連載中。

llustration:stomachache Edit:ツドイ
(こちらはTBSラジオ「オトビヨリ」にて2021年4月13日に公開した記事です)