見出し画像

読書感想文 逃げるな新人外科医

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル 逃げるな新人外科医
作者   中山祐次郎
出版社  幻冬舎文庫

本職の外科医が書いておられるようです。先日読んだ南杏子さんの作品もそうですが、病院が舞台の作品は、やはり本職の方が書かれると、専門知識や状況が克明でリアリティがあって、さすがだなあと感じます。

TV朝日の土曜ナイトドラマの原作泣くな研修医の続きの様です。研修医だった隆治が新人外科医として働く日々を描いています。私は初めて読んだのですが、とても読みやすい作品です。

あらすじ

新人外科医として働く隆治は、初めて担当患者を受け持ちます。水辺さんと紫藤さん、どちらも大腸がんの患者です。手術は成功しますが、紫藤さんが退院後縫合不全の出血で担ぎ込まれ、一時は心肺停止状態になります。手術前に気安く大丈夫だと請け合った隆治は、家族から責められ落ち込みます。一方、水辺さんは抗がん剤の治療をする為再入院しますが、隆治の失敗で治療が延期されます。またも、落ち込む隆治。そんな日常の中で、隆治の成長が描かれます。途中、バイトで行く看取りだけをする病院の、どこか諦めたような事務的な寂しさのにじむ状況に、人の死を改めて感じる隆治。医者だからこそ、人の死に慣れてしまってはいけないと感じるのです。
水辺さんは抗がん剤治療を始めますが、それが原因で重い肺炎を引き起こし、助けられない状況に陥ります。家族に最後の時の延命措置を行うかどうかを聞く隆治。家族から、水辺さんが隆治を信頼していたことを聞かされ、判断を任された隆治は、自分なら心肺蘇生法をしないと答えます。家族もそれを選び、水辺さんは亡くなります。「いい医者になれよ」と最後の言葉を残した水辺さんを死亡を確認する隆治。
隆治の実家では、隆治の父が大腸がんで手術します。隆治が駆けつけた時に、急変し集中治療室に入る父。そして、家族として、最後の時の延命措置を取るかどうかを、聞かれる隆治。いつもと逆の立場になった隆治は、「まだ、決められません」と答えます。あわただしく心肺蘇生をする医師たちを見ながら、正しい患者の家族としての判断はわかっているはずなのに。

感想

一人の人の死。その人と関りの深い家族と、仕事として関わる医師。立場が変われば、気持ちも変わります。
水辺さんに信頼され、いい医者になれと言われ、看取る。泣けますね。
隆治の母が、夫が大腸がんであるにも関わらず、息子に自分の患者を診る責任があるから帰ってこなくてよいというくだり。ここも、泣きますね。
登場人物は、皆優しく、様々な人の気持ちに泣かされます。
正直、こんなに泣く作品だとは思いませんでした。
医師として患者の家族に言う言葉を、患者の家族として聞く立場になる。わかっている、当たり前、そんな風に思うことも、立場を入れ替えるとそんなに単純なものではないことに気づかされます。
人間の感情はそんなに単純なものではないけれど、葛藤することで自分自身を納得させて前に進んで行くのだなと感じます。

上司の佐藤、お嬢様研修医凛子と、彼女のはるか、この三人の女性が良いキャラクターで救われます。
都会的で軽い感じだが優秀な同期の川村や、性格は悪いが腕の良い指導医の岩井など個性豊かな登場人物がいるので、どんどんシリーズも増えていきそうな予感がします。

読んでいると医者という職業が過酷で大変な仕事だと思います。このコロナ禍、こういう職業の方たちの努力で安心できる立場にいる私は、ほんとうに頭が下がる思いです。
でも、何より、病気にはなりたくない。
お医者様のお世話にならない人生送りたい。
正直、一番の感想は、「いつまでも、健康でいたい」だったりして。

#電本フェス2021秋読書 #逃げるな新人外科医

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?