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読書感想文 クロコダイル。ティアーズ 雫井修介

ワニは獲物を捕食する時、涙を流すのだそう。
だから、英語で「ワニの涙」は「嘘泣き」のことなのです。

直木賞候補作になったこちらの作品は、女の「嘘泣き」が引き起こす、家族の中の疑心暗鬼の物語です。

あらすじ、ネタバレありの読書感想文です。

老舗陶磁器店土岐屋吉平の店主久野貞彦は、作家からも一目置かれる目利きだ。自社ビルを持ち、経営も順調。貞彦の妻の暁美は女将さんとして店を支えている。
一人息子の康平は跡継ぎで、一緒に働いている。
康平の妻、想代子は三歳の那由太を子育て中で、店には関わっていない。
店の将来になんの不安もなかった貞彦だが、突然の事件ですべてが変わってしまった。
息子の康平が殺されたのだ。
犯人は、想代子の元カレの隈本。想代子と別れた後の人生が上手くいかなかったのを逆恨みしての犯行だと思われた。
懲役17年が言い渡された時、突然隈本が叫ぶ。
「俺は想代子に依頼されて、DV夫の康平を殺した。刑期を終えれば想代子とヨリを戻す」のだと……

想代子は隈本の言うことはデタラメだと言うが、貞彦と暁美の心の中に想代子への疑義が生じた。

姑である暁美の心の中に
「嫁が息子を殺し、孫を跡取りにして資産家である自分たちの家を乗っ取ろうとしているのではないか?」
という疑惑が沸き起こり、姉の東子に相談する。
暁美は、東子と一緒に想代子のことを探るのだが……

ぐいぐいと引き込まれる物語で、設定もモデルがあるのかと思うほどリアルです。

嫁姑問題は遥か昔から存在し、これからも未来永劫存在し続ける。
一家に女は二人いらない。
店にも女は二人いらない。
暁美は、北風のようにビュービューと貞彦に吹き付け、
想代子は、薄日のようにふんわりとした熱で周りの男を温めてしまう。
知ってか、知らずか、周りの男を味方につけてしまう美人の嫁。
それに焦る姑。
姑である暁美が嫁の想代子を見る時、そこには女の嫉妬心という幕がかかり、様々な疑義という色がついてしまいます。
そして、暁美に味方する姉東子。人の悪口二人で言えば、どんどん気持ちは加速する。これも、リアルです。
だって、姑の女姉妹が一緒になって、嫁の悪口言い放題って話はそこ、ここにありますものね。

人の心は本人にしかわからない。
視点を変えれば、すべて違って見えてくる。
そして、自分の本心だと思っていることも、もしかしたら、本心ではないのかもしれない。
無意識に口にした言葉、無意識に見せた態度。
本人は無意識だと思っているけれども、本当は緻密に計算された人たらしだったのかもしれない。

ミステリアスで不穏な空気が終始漂い、すべての結果がわかっても、読者を安心させない読後感。

なかなか、面白い作品でした。



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