こぼれ落ちた並木

 ひとたび書きはじめればなんの問題もない。初恋の淡い記憶に布団を掛けに行くと言って、親父が小走りで猫の後をつけていく。摺り足になれていない親父のスピードが日没近い夕暮れ波止場の、波の音につられて上がる。猫は布団に潜りに行きたい。親父の摺り足は加速し、既に予期されていたエナジーを越えていた。薄暗い夜道に現れた白い煙は郊外へと延びる、彼の足跡。行くあてのない少年少女がたむろするショッピングモールに向かった彼は一階から三階まで、高速のまま、重力を伴う信号となって空間を歪め、寝具をすべてさらっていく。もはや光速を越えてしまった親父は、布団に潜った少年の姿だ。妻にばれたくなかった嘘が少年の涙となり頬を伝う。猫は足元で青魚をかじっている。布団を失ってしまったショッピングモールに子供達の姿はなかった。少年は帰り道で煙草に火をつけ、それは夜空に舞い、少女は万引きしたマニキュアが乾かないからと、除光液を放り投げ、それも夜空に舞う。不純性行為を引き継ぐための旅に出る子供達。俺は時間をもて余して言葉を宙に放り投げる。人の鳴く声を聞き、バリ島の奥深くで眠るシャーマンに会いに行く。

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