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魔法少女の系譜、その91~『ゴワッパー5 ゴーダム』と口承文芸~


 今回も、前回に続き、『ゴワッパー5 ゴーダム』を取り上げます。

 「男女混成チームで、女性がリーダー」というあり方は、一九七〇年代のアニメとしては、画期的でした。
 伝統的な口承文芸の中に、『ゴワッパー5 ゴーダム』の岬洋子のような登場人物は、いるでしょうか? 男性ばかりのチームに、女性が一人入って、彼女がリーダーとなり、敵と戦うというものです。

 まったくいないことはありません。
 例えば、日本の伝承ですと、神功【じんぐう】皇后の伝承が、そうですね。神功皇后は、女性ながら武装して、(男性ばかりの)軍を率いて、敵と戦ったとされます。

 とはいえ、『ゴワッパー5 ゴーダム』と、神功皇后などの伝承を、直接、比較はできません。相違点が多いからです。

 例えば、『ゴワッパー5 ゴーダム』での岬洋子は、まだ十代、中学三年生の女の子です。義務教育を受けている身ですから、決して「大人」ではありません。
 対する神功皇后は、応神天皇と結婚して、身ごもっていました。少なくとも、古代日本の感覚では、「年端もいかぬ少女」ではなく、立派な成人女性でしょう。

 また、『ゴワッパー5 ゴーダム』では、男女のチームが協力して、一つの巨大な超兵器(ロボット)を操ります。紅一点のヒロインだけが、突出していたわけではありません。あくまで、ゴワッパー5というチームが、中心です。
 神功皇后などの伝承では、紅一点のヒロインの活躍が、目立つばかりです。「男女混成のチームが、互いに対等な立場で、協力して戦う」という伝承は、あるかも知れませんが、極めて少ないでしょう。

 そして、異色なのは、何と言っても、超兵器(ロボット)のゴーダムです。ゴーダムは、人格を持つロボットなのです。
 これは、並みいるロボットアニメの中でも、珍しい設定です。

 ゴーダムは、大洗博士【おおあらいはかせ】という人物により作られて、奇顔島に眠っていました。大洗博士は、地球空洞説(!)を唱えており、地底に住む魔人たちが、地上を征服しにやってくることを予測していました。
 しかし、大洗博士の説は、人々に受け入れられませんでした。彼は、いずれやってくる地底魔人たちに備えて、超兵器のゴーダムを作り、奇顔島に隠しました。そののち、大洗博士は死んでしまいますが、死ぬ前に、自分の記憶と人格を、ゴーダムのメカ頭脳に移植します。
 大洗博士は、不死のロボット、ゴーダムとして蘇りました。死んで肉体が滅びた後は、ゴーダムこそが、大洗博士となりました。

 奇顔島は、海流の関係で、上陸するのが難しい島でした。その困難を突破して来る者があれば、その者に、ゴーダム(自分ですが)を託そうと、大洗博士は考えていました。
 子供ながら、その困難を突破してきたのが、ゴワッパー5です。ゴーダム(=大洗博士)は、迷うことなく、ゴワッパー5に、自分の命運を託しました。
 大洗博士の予測どおり、地底魔人たちが侵略してきて、ゴワッパー5は、ゴーダムに乗って戦うことになります。

 つまり、ゴーダムは、「意思を持つ魔法道具」です。ゴワッパー5は、魔法道具の意思によって選ばれ、「魔法少年少女」になります。

 魔法道具に選ばれた人間が、英雄になる話は、口承文芸の中にも、多いです。
 有名なところでは、アーサー王伝説にありますね。正体のわからない少年だったアーサーが、「魔法の剣」を台座から抜いたことで、ユーサー・ペンドラゴン王の後継者として認められます。

 けれども、「魔法道具に選ばれて、伝説的な戦士になる」ことはあっても、「その戦士が一人ではなく、複数の少年少女で、しかも、チームのリーダーは、十代の少女」となると、おそらく、口承文芸には、存在しないでしょう。
 加えて、魔法道具自体が、普通の人間的な記憶や人格を持っていて、少年少女のチームとコミュニケーションを取りながら戦う、となると、口承文芸の範囲を、はるかに超えています。

 ゴワッパー5の少年少女たちは、肉体的には、まったく普通の人間です。血筋的にも、王家の一族などということはなく、現代日本―一九七〇年代の日本―の庶民の子供たちです。超能力者でもありません。人並み以上に頭が良かったり、肝が据わっていたりしますが、超常的な能力とまでは、言えません。
 このあたりも、口承文芸と違います。

 口承文芸では、神功皇后やアーサー王の伝説にあるように、「高貴な血筋であること」が非常に重視されます。あるいは、のちに英雄となる人物は、そもそも出生の時から、何か異常なことがあり、並みの人間でないことが暗示されます。

 ゴワッパー5は、視聴者と同じ「現代日本の普通の子供たち」です。現代日本―一九七〇年代の日本―のアニメとしては、これが重要だったのでしょう。自分たちと近い存在が、巨大ロボットを操る英雄になれるのが、視聴者の夢をかき立てました。

 『ゴワッパー5 ゴーダム』は、口承文芸からは遠く隔たった、よくできた創作物語です(^^)

 ジャンルで言えば、『ゴワッパー5 ゴーダム』は、ロボットアニメです。本作が放映された昭和五十一年(一九七六年)には、ロボットアニメには、すでに定型ができていました。
 ロボットアニメがお好きな方なら御存知でしょうが、最初の巨大ロボットものといわれる『マジンガーZ』の段階で、ほぼ、定型が決まってしまいました。
 『マジンガーZ』は、昭和四十七年(一九七二年)から、昭和四十九年(一九七四年)にかけて、放映された作品です。

 少年、もしくは、二十代の青年の主人公が、巨大ロボットに乗りこんで操縦し、強大な敵と戦うこと。
 巨大ロボットは、天才的な科学者によって作られること。
 主人公には、仲の良い女友達がおり、彼女も、戦闘において、補助的な役割を担うこと。彼女は、しばしば、主人公の恋愛の相手となること。

 『マジンガーZ』、『グレートマジンガー』、『ゲッターロボ』、『超電磁ロボ コン・バトラーV』、『大空魔竜ガイキング』など、多少のアレンジはあるものの、みな、この定型を踏まえています。
 『マジンガーZ』が爆発的にヒットしたために、雨後のタケノコのように、似た作品が、ぞろぞろ出たのですね。『ゴワッパー5 ゴーダム』も、それらの作品の一つと見られていました。『コン・バトラーV』や『大空魔竜ガイキング』のように、同年に放映されていたロボットアニメが、いくつもありました。

 ところが、『ゴワッパー5 ゴーダム』は、この定型に収まらない作品でした。ここまで、『魔法少女の系譜』シリーズを読んできて下さった方には、おわかりですね(^^)

 巨大ロボットを操るのは、少年少女のチームで、リーダーは女子です。彼女は、補助的役割どころか、チームの頼もしい姉御で、恋愛相手にはなりません。
 天才科学者がロボットを作る点だけは、定型を踏まえています。ただし、大洗博士は、ゴワッパー5と出会う三十年も前に死んでいて、自身がロボットになっています。巨大ロボット、ゴーダムとなった大洗博士は、ゴワッパー5を戦士として選び、ゴーダムの頭脳として、少年少女たちを導き続けます。

 こうして見ると、『ゴワッパー5 ゴーダム』は、先進的な要素を備えた作品でした。二〇一〇年代の現在にリメイクしても、行けそうですね。
 残念ながら、一九七〇年代当時には、視聴率が伸びきれず、あまり有名な作品にはなりませんでした。もっと評価されるべき作品だと思います。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ゴワッパー5 ゴーダム』を取り上げる予定です。



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