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哀と自費出版の苛立ち。

 今はもう業界全盛期のように美味しい話は舞い込んでこなくなったし、美味い飯も食えなくなったけど、出版で飯を食ってきた身としちゃあ、出版を餌に私腹を肥やすやり方には合点がいかぬ。
「この作品、いいいですねえ。手を加えれば商品として価値が出ますよ」とそそのかし、手を加え、品を用意し、はい50万円だ、100万円だとの請求に、残金少ない袖から絞り取るやり口は、文化という旗印の内実搾取の現代カラクリ、文化の風上にも置けやしねぇ。
 出版は、編み上げたものの価値を広範囲に投網のように投げかけて、認めてもらった分を対価としてちょうだいする、需給のバランスで成り立つもの。それを収入に主眼を置いちゃって「出版の夢」なる餌でうまいこと釣り上げて、出したはいいが売れるか売れぬかは神様の言うとおりじゃあまりにも無責任。これって他人の自慰行為を手伝うだけ手伝って、しまいにはおっぽり出すのと一緒じゃん。
 しかもだよ、「作ってあげるよ」と上から目線。出版の「売れるか⁉︎」目線と違って、研磨された編集力も時代を流れを読む力もいりはせぬ。餌に食いつく夏の虫を鷹揚にかまえていればそれでよし、の姿勢。これはもう、かつて出版と呼んでいた文化とはまったくの別もんだ。パブリックな出版は、金払ってどうにかなるものじゃなかったもの。

 誘惑する側の当事者は「ニーズに応えているだけすよ」といけしゃあしゃあと申される。けど、ねぇ。出版のニーズってのは社会が求める情報であって、個人の出版ニーズではないはずだよねえ。減らず口は、次から次へと虚を積み、金を積ませる。

 情報伝達黎明期、求められる情報の増幅機として活字が適材適所の役割で有効活用されてきた。なのに今時の潮流には、儲けてなんぼの邪心がひょっこり紛れ込んじまったんだね。
 こちとら、ひとつの情報が拡散されて多くの人に「!」や「ほぉ」や「へぇ」な情報を届けることにやりがいのせてやってきたのに、片や「本を出したい人がお金を出せばいいんですよ」と読者不在に我関せずの厚顔無恥で、渡板をすり替えた輩がまだら模様を描くみたいにして業界に居座っちまっているんだね。ああ、嘆かわしい。

 邪心は(うまくいけば)の最重要部分を腹の黒い部分にひた隠し「売れることも充分にありえます」と甘い蜜で「出版したい心」の火のついた熱意に油を注ぎそそのかし、熱火をあおる。リスクは、自費出版者もち。自社はしっかり利益を確保。こんなうまい話はないからね。失われた30年な時代に、これでショーバイが成り立つならば、ビジネスとしては及第点のロールモデルかもしれないけれど、そのひとり勝ち商法に、万人の幸せ願って臨んだ出版文化の血脈はいっさい流れていないから。

 こんな現実に、怒りを抱かずにいられようか。ならば空想世界で一刀両断。裁きにかけて勧善懲悪刀でめった切り。
 作品を持参し、案の定カモと目され、くいついてきたという設定で以下、その空想展開。

相手「いいですねえ、この作品。いいですよ。これならうちの編集がきっちり書籍として完成させていけますよ」
当方「いいねえ、そういうの。著者は編集さんと二人三脚で行かないと、いいものは出来上がりませんからねえ」
相手「そうなんです(ぽんと手を打つ)。よくご存知で。なら話が早うございます。で、これが、料金表になります。簡易編集の『梅コース』は30万円、口頭アドバイスが20回までついてます。
 中レベル編集の『竹コース』だと60万円。原稿を書いていただく前にプロ(??)がアドバイスをして、レジュメをしっかり構築するところから始めます。それから作稿に取りかかっていただいて、添削をしていきます。編集作業は合計10時間までついてきます。規定編集時間を超えると、1時間につき3万円を頂戴することになります。
 『松コース』もございまして、こちらは聞き取りで原稿を起こし、編集を進めてまいります。著者様はただお話いただくだけですから、お手間は最小に抑えられます。分量や難易度が絡んでまいりますので、こちらの料金は時価となっております。
 これに印刷と製本代、販売に関わる手数料と告知に要する広告費が上乗せになりまして……」
 つらつら文字を書いているわけだけど、文章に落とし込んだこれらの会話にもうこれ以上、耳を傾けていられなくなってきた!
当方「もう、いいわ!」ちゃぶ台ひっくり返して、自費出版社をあとにする。「べらんめぇ、マスに広がるはずの出版で、おめえらはちんまりこっそりマスターベーションしているだけじゃないか。これ以上つき合っていられるかいってぇの。そこまでして本を出すくらいなら、おめえらがシコシコかくのと違って、ネットでコツコツ作品書いて、食わねど高楊枝でいてやらぁ。そっちのほうがよっぽどマシってぇもんだ!」

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 前からずっと言いたくて言えてなかったこと。
 ここで書けてスッキリしたぁ。

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