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その猫の手、貸して。

 コンピュータもスマホもなかった時代に生きた昔人は、年の瀬迫る師走に入ると『猫の手』を借りに奔走した。
 あれ、違ったかな。多忙が過ぎて手がまわらず、まわす手欲しさに猫に手を合わせて「お願い、手伝って」と懇願したのだっけかな?

 だけど、猫は手を貸してくれない。誰も猫の手レンタルの連絡先を教えてもくれない。

 竹下通りでもぶらつけば、猫の手印の孫の手くらいは売っていそうな気もするが、そんなのじゃ背中は掻けてもやるべきことはこなせない。

 コンピュータもスマホも使える現代は、昔人が奔走していたアナログ時代とは違う。効率化は演算処理能力の向上で格段に進み、手紙を出すのにも郵便局に出向かずに済むようになった。

 便利で合理的時代は、かつてよりはるかに効率化が進んでいる。
 それでもみな、師走は慌ただしい。

 やはり猫の手を借りなければならないのか?

 デジタル時代の猫の手はきっと昔と違う。じゃれて遊ぶ猫ではなく、知能的な猫の手。それってAI猫かもしれないよ。

「お願い、助けて」
 ドラえもんが脳裏を掠めていく。

 デジタル時代の年賀状は、古き良き時代の風習を踏襲しながら、アバターが届け先のバーチャルポストに投函しにいく。

「お願い、ドラえもん」
「しかたないなぁ。のび太くんはいつもそうやって怠けてばかりいるんだからぁ」

【投函】ボタンをポチ。

 画面で、ポスティングした年賀状を郵便局員のドラえもんが回収していくシーン。
 それからおもむろに『どこでもドア』を開いて↓
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                      ドアの向こう側は届け先。
「こんにちは。郵便局ですぅ。年賀状を届けにきましたぁ」

 このように、一連の行程が在宅で完結する。
 その時、飼い猫の手は? 炬燵でマイ枕代わり。誰の手助けをするわけでもなく、緩やかな腹式呼吸で幸せに浸っている。

 初夢にはちと早い、現実に起こりうる近未来のお正月……。

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