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光陰矢の今年。

 去年と今年をつなぎ留めていた冬が終わり春が来て、梅雨空の切れ目から夏が這い出そうとしている。移り変わりの目まぐるしさといったら。

 時の足は速い。追い立て、ときに囃し立てながらせわしなく小走りでけしかけてくる。時には、いつだって追われていた。だからてっきり時は背後にいるものだとばかり思っていたのに、ここにきて塩梅が流れを変えた。じき時は意識を追い抜き、ひと足先に1年を折り返す。

 いつ出し抜かれてしまったんだ? 感覚的にはやっと序盤を抜けたくらいの今年を、時は寸分の狂いもなくきっちり半分で踵を返そうとしてる。

 今年もまた繰り返されてしまった。追いかけられていたはずが、すっかり水の差を開けられ先行されていた。

 そういや去年も一昨年もその前も、同じように「光陰矢の今年」に辛酸を舐めさせられてきた。繰り返されてきたっていうのに、まだ身に覚えがいたらなかった。
 いや、出来が悪いだけじゃない。精神がこれまでずっと時の足の速さに抗ってきたからなんだ。

 時の速足が「我がペース」を踏みつけて今年もまた先を急ぐ。
 私は「もう少しここにとどまりたい」と時の背中に投げかける。だけど懇願の手は届かず虚空に宙を切るだけだ。現代的に生きられない私は、ただ人間的に生きていきたいだけなのに。


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