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はいぷ・さいくる

Hype Cycle(はいぷ・さいくる)というのをご存じでしょうか。きっと「ああ、これね。見たことある。知ってるよ。」という方が多いのではないかと思います。

ガートナーの造語?なのでしょうか。ガートナーによるとテクノロジが登場した後の動きを視覚的に説明するものであり、実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したものとのことです。

ハイプ・サイクルの仕組み

↓そう、こんな曲線の、これです。

以下5つのフェーズで構成されています。

1. 黎明期(Innovation Trigger)
潜在的技術革新によって幕が開きます。初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディア報道によって、大きな注目が集まります。多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。
2. 過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)
初期の宣伝では、数多くのサクセスストーリーが紹介されますが、失敗を伴うものも少なくありません。行動を起こす企業もありますが、多くはありません。
3. 幻滅期(Trough of Disillusionment)
実験や実装で成果が出ないため、関心は薄れます。テクノロジの創造者らは再編されるか失敗します。生き残ったプロバイダーが早期採用者の満足のいくように自社製品を改善した場合に限り、投資は継続します。
4. 啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)
テクノロジが企業にどのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まります。第2世代と第3世代の製品が、テクノロジ・プロバイダーから登場します。パイロットに資金提供する企業が増えます。ただし、保守的な企業は慎重なままです。
5. 生産性の安定期(Plateau of Productivity)

主流採用が始まります。プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義されます。テクノロジの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。
https://www.gartner.com/jp/research/methodologies/gartner-hype-cycle
https://www.gartner.com/en/documents/3887767

hype(はいぷ)は過度の誇張という意味です。ハイプ・サイクルでは対象のテクノロジが出てきた際に一時期の過度な期待があり、また、その後の失望があるということを表しています。どの技術へ投資すべきかを考えるための材料といわれています。

一方で、ハイプ・サイクルは、サイクルになっていない、科学的でない、過去の傾向に対するコメントに過ぎない、など批判も多いようです。

黎明期は英語ではInnovation Triggerですが、以前はTechnology Triggerだったようです。技術そのもの変位を表していないという批判もありますから、確かにイノベーションの方が合っているように思いますね。イノベーションのためにはテクノロジをウォッチしていないといけませんが、テクノロジのみ追いかけるのとも違いますね。

2020年版5つの先進テクノロジ・トレンド

2020年版 先進テクノロジハイプサイクル(出典:Gartner)

2020年のハイプ・サイクルは随分と左側、つまり黎明期や過度な期待のピーク期に寄っているのが気になりますね。ますますテクノロジ進化のスピードが早まっている、環境変化が激しい、という見方もできるかもしれません。しかし、一方でバズワードによる言葉遊びが過ぎている可能性もあることを頭の片隅に入れて置くことをお勧めします。

色々な見方があるものの、2020年の5つの先進テクノロジ・トレンドが発表されているので、確認してみましょう。

デジタル・ミー(Digital me)

テクノロジと人の統合が進みつつあり、デジタル・パスポートやソーシャル・ディスタンシング・テクノロジなど、人をデジタルで表現する新たな機会が生まれています。人のデジタル・ツインは、物理空間とデジタル空間の両面において人を表現できる、個人のモデルを提供します。人がデジタル世界とやりとりする方法も、画面やキーボードにとどまらず、インタラクション・モード (音声、視線、ジェスチャなど) の組み合わせを使用したり、場合によっては人間の脳を直接変えたりするようになっています。

以下のテクノロジーが対象とされています。

ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ(social distancing technologies)
ヘルス・パスポート(health passports)
人のデジタル・ツイン(digital twin of the person)
シチズン・ツイン(citizen twin)
マルチエクスペリエンス(multiexperience )
双方向BMI(2-Way BMI (brain machine interface))

注目はやはり何と言っても、2020年世界中を混乱させているCOVID-19の影響を軽減するためのソーシャル・ディスタンシング・テクノロジですね。ただ、このキーワードそのものは何か特定のテクノロジを指しているようには思えないので、バズワード候補かもしれないです。

デジタルツインとは、物理空間にある現実の状況や環境情報をなどをリアルタイムで収集し、仮想空間上にでデジタル情報(モデル)を用いてシミュレーションをすることなので、人のデジタル・ツインというのは、物のインターネットと訳されていたIOT(Internet of Things)の活用の中注目されているキーワードです。ハイプ・サイクル上黎明期にありますが、個人的には納得感ありません。利用シーンやシナリオ、個人情報の取り扱いや倫理面の課題が整理されれば、現実的なソリューションが可能と見ています。

ヘルス・パスポートは2年以内に採用可能、となっています。欧州では導入検討が進んでいるようですね。名称がCovid-19 Passport というあたり、切羽詰まっている状況を表していますね。用途が想像しやすい反面、今後の活用にあたっては偏ることなく検討・拡大していってもらいたい領域です。

コンポジット・アーキテクチャ(Composite architectures)

コンポジット・アーキテクチャは、ビジネス・ケイパビリティ・パッケージで構成されるソリューションによって実装されます。組み込みのインテリジェンスは分散されており、エッジ・デバイスやエンドユーザーなどの外部にまで拡張されています。

なにやら、難しそうな説明ですが、各機能を複合的に組合せてビジネス上の課題を解決できるアーキテクチャ、ということでしょうね。以下のテクノロジが対象です。1つ1つのキーワードに新しいイメージがありませんので、あまり強いメッセージ性は無いように思います。ただ、このような考え方は、随分と昔から何度も検討されいるものの、実現化されていない領域です。機能の組合せによる課題解決をするアーキテクチャは普遍的なテーマともいえるので、テクノロジによる実現性が向上するという期待は常にあるかと思います。

コンポーザブル・エンタプライズ(composable enterprise)
ビジネス・ケイパビリティ・パッケージ(packaged business capabilities)
データ・ファブリック(data fabric)
プライベート5G(private 5G)
組み込み型AI(embedded AI)
エッジにおける低コストのシングル・ボード・コンピュータ(low-cost single-board computers at the edge)

フォーマティブAI(Formative AI)

状況の変動に応じて動的に変化できる、一連の先進的なAIと関連テクノロジを指します。こうしたテクノロジの一部は、AI対応の開発ツールを用いて新規ソリューションを生み出しているアプリケーション開発者やユーザー・エクスペリエンス (UX) 設計者に利用されています。また、長期的に適応するために動的に進化できるAIモデルの開発に利用されるテクノロジもあります。最も高度なテクノロジは、具体的な問題の解決を目的として、まったく新しいモデルを生成することができます。

フォーマティブとは、「形作る(ことができる)」、「発達の、成長の」という意味ということから、フォーマティブAIが「状況の変動に応じて動的に変化できる、一連の先進的なAIと関連テクノロジを指します。」という意味を理解できそうです。

AI(artificial intelligence)関連の話題は、それだけで多くの話題や議論があります。長年研究をされている方からすると違和感がある世の中の騒ぎ具合いかと思いますが。私自身も第三次人工知能ブームに便乗して学習中、ということもありますし、テクノロジ面(基礎科学)だけでなく、利用の仕方(つまり応用科学)や倫理面など、多角的な視点で検証したい、また改めて書きたいテーマですので、今回はキーワードの紹介まで、ということにします。以下、参考にしてください。

AI支援型設計(AI-assisted design)
AI拡張型開発(AI augmented development)
オントロジ/グラフ(ontologies and graphs)
スモール・データ(small data)
コンポジットAI(Composite AI)
アダプティブな機械学習(adaptive ML)
自己教師あり学習(self-supervised learning)
生成的AI(generative AI)
敵対的生成ネットワーク(generative adversarial networks)

アルゴリズムによる信頼(Algorithmic trust)

責任ある権限に基づく信頼モデルは、データ、資産ソース、個人とモノのアイデンティティについてのプライバシーとセキュリティを確保するために、アルゴリズムによる信頼モデルに転換しつつあります。アルゴリズムによる信頼は、組織が顧客、従業員、パートナーの信頼を失うリスクとコストにさらされないよう保証する上で役立ちます。

以下のテクノロジが対象です。

セキュアアクセスサービスエッジ(SASE(サーシー): secure access service edge)
差分プライバシー(differential privacy)
来歴の認証(authenticated provenance)
個人所有アイデンティティの業務利用(BYOI: Bring Your Own Identity)
責任あるAI(responsible AI)
説明可能なAI(explainable AI)

SASE(さーしー)は、クラウド利用があたりまえの今の時代に提唱されているネットワークとセキュリティのフレームワークの概念で、デバイスや利用者のロケーションに依存しないセキュリティを提供する仕組みを目指しているということで、2020年のトレンドとして同時に取り上げられているコンポジット・アーキテクチャの一部となり得ると考えられます。

責任あるAI(responsible AI)や説明可能なAI(explainable AI)は、AIテーマの記事でいつか私なりの視点でまとめたいと思いますので、そちらで。

シリコンの先へ(Beyond silicon)

40年以上にわたってIT業界を導いてきたのは、ムーアの法則 (IC のトランジスタ数は約2年ごとに2倍になる) でした。テクノロジがシリコンの物理的な限界に近づく中、新たな先端素材が、テクノロジの加速と小型化を可能にする画期的な機会をもたらしています。

以下のテクノロジが対象です。

DNAコンピューティング/ストレージ(DNA computing and storage)
生物分解性センサ(biodegradable sensors)
カーボン・ベースのトランジスタ(carbon-based transistors)

DNAコンピューティングについては、デオキシリボ核酸(DNA)を利用したコンピューティングということですが、まだまだいかに計算を行うかの研究段階とのことではあります。ハイプ・サイクル上は黎明期にあり、採用までに10年以上とされています。
しかし、既に電子コンピュータとの組み合わせによる汎用型コンピュータやDNAや酵素の分子だけからなる分子コンピュータの試作開発などをしている研究者もいるようです。生物学的な観点から環境や生命への影響が懸念事項です。有害な細菌やウィルスなどの遺伝情報が生成されることはもっての外です。医学的応用を正しい方向で目指して欲しいものです。

生物分解性センサについては採用まで10年以上とされています。実現までにはまだまだ時間がかかりそうですが、無害な医療用デバイスなどは今後注目かと思います。

(参考)
https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20200819
https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2020-08-18-gartner-identifies-five-emerging-trends-that-will-drive-technology-innovation-for-the-next-decade
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/12505
https://www.biophys.jp/highschool/index.html

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