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ドラマ『作りたい女と食べたい女』第19~26話原作改変&改悪メモ

 NHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』(以下『つくたべ』)シーズン2の放送も第25話の放送を終え、最終週を残すまでとなりました。

 以前にも書いたとおり、シーズン2はドラマオリジナルが多くなっており、その分ドラマ制作陣の実力もより見えてくるでしょう。

ゆざきさかおみ:著 『作りたい女と食べたい女 5』
2024年2月15日初版発行分 第41話 より
左目が隠れる意味ですが、作中描写からはよくわかりません

 特に、医療診断を受けるシーンは、客観的な話ばかりしてやたら冷たい様子の原作の精神科医から、患者に寄り添えるタイプの医師に改変がされました。原作の描写だと当事者を医療から遠ざけかねない問題のある表現だったので、その点は良い改変だったと思います。

【会食恐怖症考証】田島治、山口健太

オールスタッフ (※シーズン2) - 作りたい女と食べたい女 - NHK

 NHKの『つくたべ』ドラマ公式サイトを見ると、会食恐怖症考証に精神科医の方の名前がしっかりとクレジットされています。やはり医師に監修を依頼していない原作『つくたべ』は疾患を舐めているとしか言いようがなく、そのような体制でまともに反省することもなく進行している連載などは即刻中止すべきかと思います。


 それでは、第3週、第4週を見ていきましょう。


第19話 矢子可菜芽の過去エピソードが原作よりも短い

 原作では矢子可菜芽の過去エピソードに補足としてアセクシュアルを知る様子も描かれていたのですが、ドラマでは映像化されず、ただでさえ伝わりにくいアセクシュアルがほとんどの視聴者にはよくわからないまま終わりました。

 アセクシュアルに関してはわざわざ考証まで付けたのに何故…?

第19話 「停電対策としてロウソクを用意していました」「さす春!」

 このロウソクはもちろん原作にはないドラマオリジナルエピソードです。しかし、防災用にロウソクを用意しておけだなんてなかなか聞きませんし、何より火災の危険を考えたらロウソクは極力避けるべきではないでしょうか。

 そう思って検索したら、ロウソクは使わないよう呼びかけている報道機関がありました。なんと、NHKです。

第19話 南雲世奈、アウティング行為におよぶ

 原作では本人からのカミングアウトという線だけは守っていたのに、ドラマ版では南雲世奈が「付き合ってるんですか?」とやっかいアライムーブをとるという愚行に走りました。これで本当に専門家の考証が入っているのでしょうか。

 一応「アウティング」自体は、本人の同意なく他者にセクシャリティを教えるという時に使われる言葉なので、このケースは正しくはアウティングにはあたりません。しかし、「付き合ってるんですか?」の後に続くのがアウティングをチラつかせる脅迫であることも十分予想されるわけで、アウティングにはかなり近い状況とも言えます。

 そもそも、ドラマ版は南雲世奈の精神不安定っぷりがひどく、原作よりも空気が読めていない人のような印象を視聴者に与えています。演技経験の乏しい演者に合わせてボソボソ言うだけで成り立つキャラクター改変しているようにも感じます。

第20話 春日十々子、白ナンバーで堂々と運搬爆走

 原作はかなり曖昧に描いていて英語圏のレビュアーがUberと疑っていた春日十々子の仕事ですが、ドラマ版ではかなり明確に白ナンバーが映りました。

 合法の範囲内で白ナンバーでの運搬を行うには「自社の製品を自社の車で運ぶ」という方法をとればいいらしいのですが、春日十々子は通勤にも同じ車を使用しており、マイカー業務となっています。従業員のマイカー営業は必ずしも違法ではないようですが、一定規模の企業が継続的な仕入れ搬送で非正規の従業員の私有車両に依存しているのは非現実的であり、電話通報が繰り返し行われることが予想されます。

 何故ドラマ版はわざわざナンバープレートを映したのか謎です。ちなみに、ドラマ版だと説明されていませんが、春日十々子の所有者は原作だと伯母から譲り受けたものと説明されています。

第21話 原作以上にどうでもよくなる貧困設定

 急遽決まった鍋会。なんと、キャラ弁ならぬキャラ鍋まで出来てしまう余裕っぷり。ついでに原作同様に野本ユキの少食設定も完全になかったことになっています。

第22話 相手のセクシャリティを気にしていた春日十々子、別人と入れ替わる

 ドラマ版では春日十々子が野本ユキのセクシャリティを気にするセリフがありました。そういった描写は原作には無く、野本ユキは恋愛をするかしないかまで心配するように改変されたのがドラマ版の春日十々子です。が、しかし、告白シーンになった途端にそういった心配は一切合切なかったことになってしまい、もはや別人です。実は野本ユキと話している春日十々子と南雲世奈と話している春日十々子はまったくの別人なのかもしれません。

第22話 ヘテロセクシャル女性に彼女の存在を明かせてしまう野本ユキ

 原作とは別人なのですが、それは。

第23話 料理好きで貧困設定の野本ユキが出来合い温泉卵を購入してしまう

 原作にはカレーパーティーの際に同じく出来合いの温泉卵パックが描かれていました。しかし、その温泉卵の購入者が誰かは説明されていなかったりします。ところが、ドラマ版では野本ユキが春日十々子の好みを考えて用意したという説明をしてしまいました。購入者が確定してしまった以上、野本ユキは料理好きでありなおかつ卵の高値に頭を痛めていたにも関わらず、出来合いの温泉卵を買ってくるという、壮大な矛盾を生んでしまいました。原作ならまだ矢子可菜芽が買ってきたものだったという逃げ道があったのに、ドラマはどうしてこういった改変をわざわざしてしまったのでしょうか?

第23話 先輩レズビアンの矢子可菜芽がガチアウティング

 原作とドラマ版では交際開始後とカレーパーティーの回の順番が入れわかっているわけでありますが、なんと呆れたことに矢子可菜芽が南雲世奈という関係性がまだよくわからないはずの第三者の前で堂々と「本当にすてきなカップルだよね」とアウティングをぶちかましてしまいました。しかも、このシーンの前に野本ユキは「いつも一緒に食べる仲の人で~」みたいな感じで春日十々子との関係をごまかして説明しており、一般的な感覚があれば「ここではまだ交際関係を黙っておいてほしい」という意思表示として認識できるはずです。一体どうしてこうなってしまったのでしょうか。果たしてこれが本当に専門家を付けて番組制作した結果なのでしょうか。

第25話 原作設定と真逆だらけのドラマオリジナル回

 野本ユキが会社の同僚女性と仲良くランチ。原作にこんな社交性、あったでしょうか?

 原作だと「仕事で重いもの持つの慣れてる」(1巻収録第7話)という台詞があったのに、ドラマの春日十々子は腰を痛めて虚弱丸出しです。この回は原作と比べると論理的におかしいところだらけで、果たして本当に原作を読んだ上でのドラマオリジナル回なのでしょうか。

 「女だから薄給」とか言ってたのに金の使い込みはむしろ荒かったり、親からの請求書だの何だの言いながら真面目に引越し先を考えていないのは、概ね原作通りです。まあ、原作の『つくたべ』は大の野菜嫌いであり、原作野本ユキだったらあんなに野菜を手に入れても食べずに捨てる未来しかないため、ドラマの展開とは違って苺を選んだとは思います。

第25話 南雲世奈がまた干渉してくる

 原作の南雲世奈にいちいち行動を伺ってくるような描写はなかったと思いますが。その分、他人の気持ちにも興味はありませんけど。

第26話 引っ越し前にめんどうな荷物をわざわざ増やす

 ドラマ版は原作以上に引っ越しの焦りがありません。行楽だけでも十分おかしいのですが、まさかまさかのベランダで家庭菜園開始です。引っ越し先によっては実がなる前に捨てるハメになるかもしれませんが、大丈夫なのでしょうか。


脚本の力量不足しか感じられない第24~25話のドラマオリジナル回問題

 ドラマオリジナルだった第24~25話の大きな問題点は2つです。春日十々子がいちご狩りに行きたかった理由の不明確さと、恋人間の意思確認のデタラメ描写です。

何故、野菜狩りよりもいちご狩りが良かったのか?

 実際の農家の方にとっては野菜といちごでカテゴリが全然違うのでしょうが、一般人のレジャーとしてはどちらもそう大して違いがありません。

 春日十々子が「カップルらしさ」にこだわりたかったのであれば、別に野菜でも問題はなかったのです。十分楽しそうでしたし。

 第25話後半でようやく「昔、母と一緒にいちご狩りに行ったから」と語りましたが、それでも母と一緒にいちご狩りをしてどう感じたのかの説明はありませんでした。何故、野菜狩りでは自分を押し殺したのか、結局よくわからないのです。

 これでは目の前の相手に「ママとの思い出を君で再現させてくれ」と言っているだけで、恋人からそんなことを言われたらドン引きしてしまうでしょう。世の中には同性愛表象になった途端にIQが下がる人は多いのですが、この流れを考えた人は一度男女に置き換えみたことはあるのでしょうか。

 もっとも原作では、「みんなのSNS事情」といったどうでもいいキャラクター設定は熱心に書かれているわりに、春日十々子の余暇の過ごし方などに関してはまるでわからないので、話を膨らませにくいのはわかります。しかしながら、原作の細かな設定を無視した結果がこれではプロとしての力量を疑われるでしょう。まあ、脚本の段階ではまったく別のレジャーだったのに、撮影の都合で野菜になったとかあったのかもしれませんが。

事前確認もなくデザートのパイを持参しておいて「わがままも言ってほしいです」

 第24~25話でとにかくノイズになって気になるのは、話単位での全体的な整合性のなさです。春日十々子は自分の意思表示が苦手というテーマで物語を構成するのなら、野本ユキが特に何の希望も確認しないまま、いちごパイを作って持ってくるのは物語として整合性がとれていないのです。現実の人間関係の問題を訴えるのに「あれはダメだけど、これはOK」はあまりにも粗雑がすぎるのではないでしょうか。


本当に調べて脚本を書いているのか怪しい、つくたべドラマのカミングアウトとアウティングに対する過剰軽視問題

 インタビューでは「事前に調べました、取材しました」と誇っていたようですが、このドラマは本記事で書いたように、妙にアウティングに近いものが多く、そしてその上、同性愛者のカミングアウトが軽視されすぎています。

 試しに検索してみたら、NHKのサイトにアウティング問題の特集ページがいくつも出てきました。本当に調べて書いていたら、こういった情報は確実に視界に入ってくるわけで、関係者は一体何を調べてこのドラマを制作したのでしょうか…?

 また、同性愛者のカミングアウトと言えば、同性愛者をリアルに描く作品としては定番と呼んでも差し支えのないものであり、実際当事者にとっては大きな出来事と捉えられることも多々あります。

 しかし、それがどうしたことでしょう。ドラマ版はシーズン1からして野本ユキの恋心のきっかけが同僚の佐山というヘテロセクシュアルキャラクターの何気ない一言からでもあり、マイノリティを描く上でマジョリティがでかい顔をしたいという制作側の醜悪な欲望がにじみ出ているようにも感じさせます。

 そもそもこの番組には「ジェンダー・セクシュアリティー考証」なる担当者がいるようですが、番組がこういった当事者の視点を壮大に欠いたものになってしまった以上、名前がクレジットされているのを恥じるべきではないでしょうか。



次週、いよいよラストウィーク

 2024年2月26日からはラストウィークであり、不動産屋編や性的同意回というすさまじい山場がやってまいります。果たして、この山場を無事に乗り越えることはできるのでしょうか。

 奇遇なことに、同時期に放送されている『正直不動産2』で家を借りる際の信用問題を扱っていました。カード事故が原因で大家が家を貸そうとしない、挙句の果てには屋外にて土下座までして貸してくれるよう頼み込むという超展開。この回でトラブルになっていた人は妊娠している男女カップルであり、『つくたべ』理論で言えば楽に家を借りられるはずの人たちであります。

 …まあ、『つくたべ』のドラマも野本ユキが同性2人に対して家を貸そうとしない大家の前で土下座でもするんじゃないでしょうか。





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