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続・少しのセンチメンタルと

自転車を走らせ、仕事へ向かう朝。
秋らしくない気候が続くけれど、朝方の風は
さすがに秋めいて、シャツの裾をふくらませる。

小学校の登校時間を少し過ぎているけれど、あの子に会わなかった。
今日は遅刻せずに行ったのかな。
朝のチャイムが鳴った少し後に、とぼとぼと学校へ向かう男の子。
うつむきがちな日、前を見据えて挑むような目をしている日、いずれも気になって、すれ違いながら行ってらっしゃいと、心でつぶやく。
高校生たちは颯爽と自転車で走っていく。
毎日学校楽しいかな。

柿の木の近くに腰掛けて休む杖を使うおじいさんの姿も、今日はない。

公園の木々の紅葉はあまり進んでいないように見えて、植物自身の中では、ちゃんと時計が動いている。きっとあと一週間もすれば、景色が変わるんだろう。
ゲートボールを楽しむ人たちが今日はいないから、犬の散歩も好きに歩けているみたい。

通り沿いの会社に、バスから降りた人たちが列をなして出勤していく。
誰もが淡々としているように見えて、これから自分がやるべきことを頭の中で組み立てていたり、一緒に働く人たちとの昨日のやり取りを思い返して、ざわざわしたり。

みんな目の前に、その少し先に、やるべきことや、やりたいこと、やりたくないけれどやらねばならないこと、やりたいけれどできないこと、あれこれ抱えて生きている。

あの子もあの人も私も。

できないことより、できること、できていることにも目を向けよう。

いろんな感情が揺さぶられた場所への、最後の出勤の朝。

いつも見ていた景色、ひとつひとつ輝いて見えた。

植物たちにおはようと声をかけて始める1日。
最後のひとつが残ってなかなか売れなかった寒菊が、売れていった。
お客さんは「残っていて良かった。私、ラッキーだわ」と喜び、こんなことってあるんだなと嬉しかった。

おすすめしたスーパーアリッサムを、3つも買ってくれた人がいた。
サクラソウがほしいと探しに来た人も、ご案内したら喜んでお庭のことを話してくれた。
朝一番で、常連のおじさんにも会えた。

最後のレジを打ち終えて、社員番号を抜いた。

みんな元気でね。
植物たちに告げる。
おかしいかな。

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