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「羽」

可燃物収集日の朝。キッチンの生ごみをまとめて玄関のドアを開けると。
足元に小さな羽が落ちているのを発見。ゴミをいつもの場所に置いてきた後に手に取ってみた。風に飛ばされてきたのかな。軽い。かたちを感じさせないふわりとしたものが手のひらにあった。

小さな羽はこげ茶色からだんだんと薄いベージュになっています。光にかざすと空が透けてグレーに変わったのは驚きでした。鳥たちが空と1つになれる秘密が少しだけわかった気がします。自分の持っているいる色がキャンバスと調和していることを鳥たちは知っているのだと思います。

カモメの羽ではなかったけれど。私の胸はカモメのジョナサンでいっぱいになっていました。そう。リチャード・バックの描いたカモメのジョナサンです。食べる為にではなく。より高みに行く為に飛んだジョナサンが私の手のひらに舞い降りてきたような嬉しさがありました。

ジョナサンが高く高く飛ぼうとするとき。私も一緒に空を飛んでいました。傷ついた羽が痛むときには。なぜだか私も腕の筋肉がズキンとしたのです。自分がいつもとは違う場所でことばを読んでいるんだろうな。いつもの場所からでは受け取れない何かを受け取っていることを。恥ずかしながら。今でも思っていたりします。

ことばには色と同じようなグラデーションの響きがあるのをとても魅力的に感じていました。

小さな羽が運んできたかのようなタイミングで。デイヴィッド・クレインの絵画展を見つけて。大喜びの私です。三越の画廊なら土地勘のない私でも。すたこらサッサとお出かけ準備です。ダメもとで誘ったやっちゃんも珍しく髭をそり始めたってことは。同行しますよのサインです。

えーっ。うそーん。
前日で期間終了。しかも本日は来週の展示準備の為お休みです。と丁寧に書かれたメッセージ。子どものように地団駄を踏む私の隣には。涼しい顔したやっちゃんが。人が激しい感情に苛まれているときに。最も苛立ちを膨らませる横顔です。

「八階で北海道物産展やっているね」
「・・・・・・。」
「ちょっと覗いて帰るか」
「うん・・・・。」

平日とあって混雑はほどほど。蟹やホタテさらにはコロッケに海鮮珍味と海の幸が並んでいます。デイヴィッド・クレインが海鮮祭りにすっかり取って代わってしまった私。ランチは海鮮丼を買って帰ろうと。こんな時の私たちはなにもかも意見が一致してしまうのです。それぞれの海鮮丼とタラコと鮭の味噌漬けも奮発しました。

海鮮丼、美味美味^^

なんだか初めから北海道物産展に行く予定だったような気持ちになりかけてしまう私です。予定はイギリスの自然と光をテーマにした絵画展での静かな時間を過ごすことだったのに・・・。



妖精を見つけてしまいそうな森の中

北海道物産展は北海道のいちぶだったけど北海道をたっぷりと味わえました。羽も翼のいちぶでしかないけれど。空がどんな場所なのかを手のひらで味わえた。そんな気がします。

今、私の脳内に反響しているのはB’zの「イチブトゼンブ」。ひとは全部見ているつもりでも。ほんのいちぶなのよね。

「今日の北海道物産展に行けて良かったね」
「物産展はついでなのよ。デイヴィッド・クレインだからメインは」
「メインは終わってたしね」
「・・・・・・。」

こうして一日のいちぶなのか全部なのかわからないまま終わっていきます。



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