防災と地学教育

災害で亡くなられた方への弔意を示し、被害に遭われた方々への支援を実施することは重要です。同時に、いつ起こるか分からない災害に対して、その被害を最小限に抑えるべく、防災を進めていくことも重要です。

以前、このような記事を投稿しました。

簡単に言うと、高校以降で地学を学ぶ機会が少ない、という内容です。
日本は言わずと知れた災害大国で、防災の重要性は言うまでも無いです。その災害が発生する仕組みを学ぶのは、主に理科の地学ですり
今回の記事は、この記事の内容に対する深掘りです。

高校で地学を学ぶ機会が少ない

中学校までの理科教育

原則、中学校までのカリキュラムは全ての生徒で共通で、理科は物理、化学、生物、地学の4分野を満遍なく学習します。学校教育の中で、理科の4分野を学ぶ機会が確保されています。

また、これらの4分野は、理科が入試科目に無い一部の私立高校等を除き、大半の高校の入試で出題されます。難関私立高校であれば、中学校の教科書の範囲を超えて、高校レベルの知識や内容も出題される可能性さえ存在します。(これは理科に限定せず、他の科目でも言えます。)

高校での理科教育

一方、高校で理科4分野を全て学習する場合は少ないです。高校の理科の4分野は、物理は「物理基礎」と「物理」、化学は「化学基礎」と「化学」、生物は「生物基礎」と「生物」、地学は「地学基礎」と「地学」といった科目で扱われます。

しかし、カリキュラムの関係上、それら全てを学習するのは負担が大きく、3年間という限られた時間の中では、いくつかの科目は学ぶことが出来ません。また、大学入試は選択科目制であり、受験で選択する科目を中心に学習し、残りの科目は少し齧る程度、あるいは全く学習しない場合が多いです。

高校:理系の理科教育

理系の大学入試では、「物理基礎・物理」「化学基礎・化学」「生物基礎・生物」「地学基礎・地学」という4科目の中から2科目を選択する場合が大半です。選択しなかった2科目のうち、1科目は高校で教科書の途中まで学習し、残り1科目は全く履修しない場合が多いでしょう。

この「履修しない1科目」が、大体の場合「地学基礎・地学」になります。理系の大学入試では、受験する大学・学部によって選択科目が変わりますが、「地学基礎・地学」で受験出来る大学は少なく、必然的に受験する者も少なくなります。


高校のカリキュラムでは、「化学基礎・化学」が必修で、「物理基礎・物理」「生物基礎・生物」のうち一方を受験科目として選択する場合が多いです。

工学部や理学部物理学科では「物理基礎・物理」での受験が必須の場合が多いです。仮に「物理基礎・物理」を使わずに受験することが出来ても、大学入学後に物理を使う場面が多いため、「物理基礎・物理」を選択する者が多くなります。

農学部や理学部生物学科といった、大学入学後に生物を中心に学ぶ学部・学科では、私が調べたら限りでは、意外にも「生物基礎・生物」での受験が必須の場合は少ないです。ただ、大学では生物を中心に学習するので、「生物系の学部・学科にしか進学する気が無い」という者は「生物基礎・生物」を選択する場合も少なく無いでしょう。


以上のことから、理系の高校生達は、高校で必修の、受験出来る大学・学部・学科も多い、「物理基礎・物理」と「化学基礎・化学」を選択する者が多く、それ以外の者は「化学基礎・化学」「生物基礎・生物」を選択する場合が多いです。そのため、理系で「地学基礎・地学」を履修する者は少なくなります。

高校:文系の理科教育

文系では、「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」の4科目から2科目を選択する場合が大半です。

「物理基礎」は高校の文系コースでは開講されない場合も多く、受験者も多くないでしょう。一方、「生物基礎」は必修の場合も多く、「生物基礎」を受験科目として選択し、もう1科目を「化学基礎」と「地学基礎」のうち一方を選択する場合も多いです。ここで「地学基礎」を選択した場合、高校でも地学を学ぶ機会が存在することになります。

ただ、「地学基礎」を履修するのみでは、「地学基礎」と「地学」の両方を学ぶ場合より、地学を深く学ぶことは出来ません。資料集は「地学基礎」と「地学」の双方に対応しているはずですが、教科書や問題集は「地学基礎」専用でしょう。

地理で地学を学ぶ可能性

地形の成因や気候等、社会科の地理において、地学に関連する内容も学びます。地学よりは専門性は低いかもしれませんが、地理でも自然環境に関する理解は重要です。

「世界史や日本史より暗記する内容が少ない」「共通テストの社会に時間を裂けない」と考える理系諸君は「地理B」を選択する場合が多いですが、それによって、「地学基礎・地学」を選択しない理系でも、地球のことについて学ぶ機会が得られます。

ただし、共通テストの地理Bでは、統計データを読み取る思考力が要求され、安定して高得点を獲得するのは厳しいです。統計データを全て覚えるのも不可能なので、社会で安定して高得点を取りたいなら、意外に他の科目を選択した方が良いかもしれません。

大学でも学ぶ機会が少ない

高校で学んだ理科は、大学での学びの基礎になります。理学部以外の学部では、一般的に、物理は工学部、化学は工学部(応用化学系)や農学部や薬学部、生物は農学部や医療系での学びの基礎となります。一方、地学は高校で履修していない場合が多いことと、地学には物理・化学・生物を応用した学問としての側面が存在することもあり、物理・化学・生物よりは軽視されてしまうことが多いです。

それらを踏まえると、大学で地学を学ぶのであれば、理学部惑星学科に行くのが良いと考えられます。ただ、理学部は「社会で即座に役立つ、実用的な技能を学ぶことに重点は置いていない」と批判されてしまう場合も存在します。また、地学を学べる学科が理学部惑星学科のみでは、地学を詳しく学ぶ者は少なくなるでしょう。

教員養成課程の理科教育コースでも地学に関する科目は履修するでしょう。ただし、あくまで教員養成課程は、読んで字の如く「教員を養成する課程」であり、研究者や専門家を養成する場所ではありません。やはり、理学部惑星学科と比較すると専門性は低いでしょう。

中学校での地学教育の意義

このように、高校や大学で地学を学ぶ機会は多くありません。「最後に地学を学ぶ機会が中学校の理科である」という者も少なくないでしょう。カリキュラムの関係上、高校や大学で地学を学ぶのが厳しいのなら、最後に地学に触れる、中学校での地学教育を充実させるべきだと思います。

地学では災害が発生する仕組みも学びます。それらに対する理解は、災害に対する正しい知見を得ることに繋がり、ゆくゆくは防災にも繋がっていくかもしれません。

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