「ニセ医学を撲滅する」という意気込みに対する違和感

写真家でがん患者の幡野広志さん(@hatanohiroshi ‏)の「ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。」を読んだ。

幡野さんは1983年生まれ。1976年生まれの私より7つ若い。

2016年、お子さんの優くんが生まれた翌年、多発性骨髄腫という癌を発症し余命宣告を受けた。

そこから、「優くん」に伝えておきたい人生のヒントを書き残した、穏やかで優しい内容が盛り込まれた素敵な本。

この本の中で「優しい虐待」という言葉が出てくる。

幡野さんが末期がんということを知った知人や親族が、「このサプリが良い」とか「気功のすごい先生がいる」など大量に怪しい勧誘をする、この根拠なきアドバイスを「優しい虐待」と呼んでいる。

善意からくる根拠なきアドバイスは、患者を間違った治療に誘導し傷つけ、そして苦しめる。

優しい患者さんほど「優しい虐待」を善意で行う人たちに何も言えない。言い返せない。

幡野さんのツイッターを読むと「優しい虐待」だけでなく、心無い「ただの虐待」も送られてきており本当に胸が痛む。

根拠のない医学的アドバイスは世の中にたくさん出回っている。それは癌だけでなく私が専門にしているアトピー性皮膚炎も同じだ。

私はまだ20代の頃、アトピー性皮膚炎の根拠のない治療を勧めている医療従事者に真剣に怒って戦った。いや、正確に言うと戦ったつもりだった。

私が勤務していた田舎のとある総合病院の近くには、ステロイドを使わないで治す、いわゆる「脱ステロイド」の有名な皮膚科があり、全国から重症のアトピー性皮膚炎の患者さんが集まっていた。

標準治療を選ばなかった(選べなかった人も多いのだが)患者さんが選んだ「脱ステロイド」。この脱ステロイドも合わなかった患者さんの一部が駆け込んでくるそんな病院だった。

「健康食品に毎月30万円くらい使っています。今、好転反応で皮膚の調子が悪いので見てもらえますか?」

毎週のように「根拠のない何か」を治療として実践している患者さんを前に

「好転反応なんてものは医学的に存在しません。ステロイド外用剤は正しく使えば安全です。しっかり治療してください。」

と、私は時間をかけて説明をおこなった。

そして、説明を受けた多くの患者さんは、ニセ医学から開放され、標準治療を受けることで症状が良くなった。

いや、現実はそういうわけにはいかなかった。

実際のところは、私の医学的に正しい説明を受けた患者さんの多くは、二度と私の診察に来ることはなかった。

なぜ?

私はずっと考え悩み続けた。20代の私は自分が間違っていた部分に全く気が付かなかった。

病気で苦しむ患者さんは、当然、私達医者に病気を治して欲しいと思って受診している。

ただ、残念なことに現代の医学では治せない病気、慢性の経過をとる病気も多く存在する。本当に多く。

私がもしそういう病気にかかったら(さいわい今はアレルギーと群発頭痛だけなんだけど)、もっと良い治療が世界中で存在しないか探し回る。それでも見つからなかったら、そしたら、とても残念だけれども、最後は私の心もみてくれる優しい先生を探す。

私の話を聞いてくれて、受け入れてくれて、そして正しい治療を行ってくれる先生にお願いする。

決して、正しい治療を行ってくれるだけの先生は選ばない。

僕もニセ医学を撲滅したい。声を大にして「その治療法は医学的に間違っている」と叫びたい。SNSでばっさばっさと間違いを切って、その分野のヒーローになりたい、そんな低俗で下品な気持ちだって持ち合わせている。

でもね、

切った刀の先には、ニセ医学を信じて苦しんでいる患者さんがいる。だから僕はしない。

今まさにニセ医学に苦しんでいる患者さんには「とりあえず話を聞きましょうか。」って伝えたい。

大きな声を出せばきっと遠くまで届くのかもしれないけれど、私の近くにいる人は耳が痛くなるはず。

近くの人に届く声でゆっくり時間をかけて「こっちの治療のほうがいいんじゃない?」って提案できるそういうお医者さんであり続けたいと思ってます。

なーんてね。



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大塚 篤司

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コメント2件

泣きました。
私も医療従事者なのですが、日々悩んでいます。
患者さんは処方された薬(製薬会社が何年もかけて開発し、膨大な費用をかけて有効性を証明したもの)は「副作用が怖いから」と嫌がり、論文も発表されていない「知り合いに勧められたよくわからないけど凄く効くらしい何か」「テレビのコマーシャルでよくやっているアレ」を飲みたがります。
患者さんが本心で欲しているのは、科学に裏付けされた(けれど根気が必要で退屈な、食事制限などの制限を伴う)教科書通りの治療法ではなく、「病気になった不幸な自分」を「劇的」に救ってくれる「奇跡」なのでしょう。
患者さんの心に根気強く耳を傾けることが治療への一番の近道というのは分かっているのですが、医療従事者の側にも相応の「聞く」スキルが求められるうえ、「効率」や「人材不足」の観点から「最良の医療」を届けるのが難しいのが現状ではないかと思います。
大塚先生のお言葉を読んで、少しでも患者さんの心に寄り添える医療従事者になろうと思えました。ありがとうございます。
ありがとうございます。一緒に頑張りましょう。
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