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1台のケーキを新幹線で配達したクリスマス

東北への憧れ

「いつかじっくり東北にいってみたいなぁ。」
という東北への憧れがあります。

そんな僕も過去に一度だけ東北に降り立ったことがあります。
場所は盛岡市、滞在時間、約1時間弱


クリスマスケーキ発送ミス


「クリスマスケーキが発送されてない!!」


ある年の12月25日、大騒ぎになったのは、
当日お客様の自宅へ着くはずのクリスマスケーキが、
発送されていない事が発覚したからでした。

冷凍発送のクリスマスケーキ。
世の中に数あるクリスマスケーキから選んでいただき、
12月25日なので、恐らく当日お召し上がりになる予定なのでしょう。
楽しみにして頂いているかもしれません。


発覚した時点ですでに正午。
東北から九州まで全国に10件分です。
絶体絶命です。


発送されていなかった原因

発送されていなかった原因はこうです。


大量に冷凍物をストックする部屋型のプレハブ冷凍庫、「チャンバー」。


チャンバー

当時は約十畳のチャンバーに棚を設置し、商品をストック、
入口近くに発送専用の集荷用棚を設けていました。

毎日来る配送業者の方との共通認識で、
集荷用棚にあるものを集荷してもらう流れでした。

この時は、クリスマスで配送物が嵩む時期です。
数日先の配送物も合わせて用意していました。

集荷用棚に〇/〇日発送分などと表記し、
発送日の区分けをしていました。


12月23日発送分と24日発送分が多かったため、
配送業者の方が間違えないように、と、
発送担当のパートさんが気を利かせて、
23日集荷時点で準備できていた24日集荷分を集荷棚とは別の棚に避けておいてくれました。

23日の集荷が終わった後、また、どんどん24日発送分で用意される発送物が、
集荷棚に積まれいっぱいになります。


そして、
24日集荷時に、
避けておいてくれた24日発送分が別の棚に置かれたままで集荷されず、着日当日に発覚した、という流れです。

(その後、集荷チェックリストを作る事になったのは言うまでもありません。)


一件一件電話をし謝罪

現場責任者は僕でしたので、
一件一件お詫びの電話をすることに。

つらいものです。

でも言っていられません。

申し訳ない気持ちで、ひたすら謝罪をしていきます。


運よく、10件全て電話が繋がり、
その中で、
岩手県盛岡市のお客様と、
大阪のお客様が、
どうしても本日欲しい、というご要望でした。
もっともです。



いざ届ける!


その時点ですでに日は傾き始めていました。

保冷バックにケーキを1個入れ、
首都圏からいざ、手持ちで行く事になりました。

急いで新幹線特急券を手配し、保冷車で近くのJR駅に送ってもらいます。


私たちの願い

その時点で私たちの強い願いは2つ!

1つめ、
無事にお客様に届けられるということ。

2つめ、
必ず当日帰ってくる、ということ。



クリスマス繁忙期でクタクタです。
クリスマスです。
行く先で宿泊もできず寒い中、1人で「野宿?」「凍死?」なども頭を過ります。


「絶対に本日中に戻ってくる。」

そう心に固く決心しました。


後輩に大阪を譲り、僕は盛岡へ。
盛岡といっても、盛岡駅からローカル駅で移動し、さらにバスへ乗り継ぎがある場所でした。


盛岡駅に着くなり、急いでローカル線に飛び込みます。


着席し一安心していると、
何故か他の乗客達の視線が僕に集中しました。

「なんだろなんだろ。」

即座に理由を探し出します。
ローカル線、
発車まではあと数分、
あ、どこもドアは閉まっているが、いま僕が乗り込んできたドアだけ開きっ放し。
よくドア付近を観察してみると、手動のボタンがあり、
「開」「閉」
の文字があります。
そういうことか、自分で閉めるシステム!

冷気対策などでしょうか。

立ち上がり、
1人歩いてドアへ戻り「閉」ボタンを押し、
着席しなおしました。
集中した視線はバラけていきました。


大阪行きの後輩からメールが入りました。
「帰りの新幹線に今乗れました!(新幹線絵文字×2)」

、、妙に焦ります。



漫画やドラマで見かけるタクシー運転手さんの「あれ」

ローカル駅に着きました。
バスに乗っている時間はありません。
タクシーに飛び込みます。


首都圏に戻れる終電はこのローカル駅から20分後に発車する電車に乗らなければなりません。
タクシーでケーキをお届けに行き、
戻ってきて、、
を含め、
20分後の電車です。



タクシーに乗り込むと人の良さそうな穏やかな運転手さんでした。

「すいません!急いでます!!」
早口で事情を説明し、行先を伝えます。


そうすると、穏やかだった運転手さんの顔がキリっと変わり
こう言いました。
「つかまっててください!」


そうです、よく漫画やドラマなどでみかける、
タクシー運転手さんの「あれ」です。
猛スピードで発進したタクシーの中で、
本物の「あれ」だぁ、、
今日、本物の「あれ」と出会えたぁ、、
と妙な感激を覚えます。

車内から電話でお客様へ、
「10分程でお届けにあがります」とお伝えします。


すごく運転の上手な運転手さんで、
お客様のご自宅へ約7分程で到着。
運転手さんに待っててもらい、お客様のご自宅のチャイムを鳴らします。

若い女性が出てくるなり、
「本当にごめんなさい!!
 集まりがあってみんなこのケーキを楽しみにしていて、、、」

(いえ、ごめんなさいはこちらです!)

謝罪をし、無事ケーキをお渡しし、タクシーへ戻ります。


「〇〇分発の電車ですよね!?」

運転手さんも我が事のように心配してくれます。

来た道を戻りながら、そわそわ焦々、、。


ローカル駅に戻ってくるなり、
運転手さんに心からお礼をお伝えし、
リレーのアンカーの様に走ります。
無事、電車に乗り込むと全身の力がダァーーーーーっと抜けていくのが分かりました。

か、帰れる!

新幹線に乗り換え、後輩にメールをします。
「無事にこっちも新幹線に乗ったよ!(新幹線絵文字×3)」


パティシエとは

パティシエは美味しいもの、価値のあるものを作るのは大前提で、
いくら美味しくてもお客様の満足が得られなかったら意味がありません。


好みについては合致しないお客さまもいらっしゃるかもしれません。

安全パイは幅広く網羅する反面、
攻めているものを求めているお客様に対して、
攻めていくとピンポイントは狭まり評価は2極化する傾向があります。

例えば、以前のブランドでは国内や欧米のお客様の評価は高く、それと反比例するように特定の地域の国のお客様の評価が伴わない、など。
(文化の違いなど)

ただ、それは仕方がない事で、面白いところでもあります。


当たり前にできる満足度は、
安心、安全、またホスピタリティであったり、確実なサプライチェーンの構築などにあると思い知りました。


その為に必要ならば、
衛生管理表、今であればHACCP管理表、
集荷チェックリストなどの作成、
それらの継続した実施をマネジメントすることも大事なパティシエの仕事だと痛感した事例でした。




いつか、ゆっくり盛岡に訪れられるよう、
目の前の仕事に邁進する所存です。










#私だけかもしれないレア体験

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