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ASDの私が雑談本を作るまで(第1回)一般的なハウツー本で挫折した人たちにも届けたい


 こんにちは、枚岡治子です。ライターとパソコンのインストラクターをしています。
 5月に、大月書店から『雑談の苦手がラクになる 会話のきっかけレシピ』という本を刊行しました(大月書店のHPでもくじが見られます。試し読みもできます)。

 私は子どもの頃から「なにげない雑談」が大の苦手でした。ですが、あるとき思いついて、いろんな人から「こんなとき、何をしゃべってる?」と聞いてせりふを集めはじめ、イラストをつけて、料理の「レシピ」に見立てて描きためてきたのです。その「レシピ」を作るまでの悩み、「レシピ」の例、実際に実行してみたときの発見を一冊の本にまとめました。 

 本書をぜひ読んでいただきたいのは、学校や職場で本業(勉強や仕事)はこなせるけれど、まわりの人とのおしゃべりが苦手で、ひどく緊張してしまったり、ぎこちなくなってしまう方。人づきあいにしんどい思いはありつつ、具体的に何に悩んでいるのか、どうしたいのかは自分でもよく分からないような方です。
 そんな方たちが「会話上手を目指すより、苦手意識を減らすこと、モヤモヤした悩みをほぐすことで、まずは自分の気持ちをラクにする」が本書の狙いです。

 通常、雑談に限らずハウツー本は、「うまい人が、うまくなるコツを教えます」というものです。が、この本は、「実はいまだにうまくない私が、うまくないなりになんとかやっていくためのツールを作りました。あなたもこれを使って、いっしょに悩みをほぐしていきませんか」という形になっています。
 「なんでわざわざ下手な人の話を聞かなきゃいけないんだ! うまい人にササッとコツを教えて欲しい!」と思われるかもしれませんね。ここで、一般的な「上手を目指す」ハウツー本で挫折するパターンと、この本の特色を図にしてみました。

 すでに自分の苦手なポイントが分かっていて、目標がはっきりしている方は、「上手を目指す」のが合っているでしょう。あとはトレーニングあるのみです。
 が、ホントーに困っていたり苦手だったりすることは、「そもそも自分は何で困っていて、いったいどうなりたいかも分からない」。その状態では、身動きが取れないのです。

 これは私自身だけではなく、誰でもそうなのだとパソコンのインストラクターをしていてよく分かりました。私が担当するのはおもに、インストラクターがパソコンの画面で操作見本を見せて、受講生が一緒に操作する集合研修です。
 このとき、初心者からの質問は「なんかおかしい」とか「どれですか?」といった曖昧な言い方が大半なのです。「いま、何の操作をしようとしていますか?」と聞くと、「先生(の画面)と同じにしたい」とか「…?」だったりします。「Excelで数式をコピーしたいのだけど、範囲選択になってしまった」などと言葉で説明できる人は、実はその時点で半分以上分かっていると言っていいでしょう。
 私はこの場合、二段階で補助します。まずは受講生の画面を見ながら、(1)「いま、あなたは何をしようとしていて、どの操作でつまずいてしまったのか」を一緒に考えて、言葉にします。納得してもらったところで、次に(2)「これを解決するためには、こう操作します」と説明するのです。(1)をすっとばして(2)だけ説明すると、結局わけが分からず操作することになり、力がつきません。
 さらに、全員の前で「この操作での、『あるある』をご紹介します」と言って、うまくいかない事例を紹介することにしています。インストラクターがわざと間違えた操作を見せることで、ようやく「あー、それ、私もなったことある!」と気づく人も多いのです。
 こうやって、自分が止まってしまったところを理解してもらうことが、ひとりでもできる力をつけるポイントになります。

 雑談も同じで、「なんか苦手」という「分からないところが分からない」状態で、高いレベルを目指す本を買ってしまうと、何が分からないかも分からないままに挫折してしまうのではないでしょうか。
 ですので、「会話のきっかけレシピ」では、著者の私が悩んで悩んで失敗しまくった体験談や、集めた雑談=「レシピ」をできるだけたくさん入れて、(1)「自分は今何ができていて、何で困っているのか、どうなりたいのか」、(2)「そのためには何をしたらいいか」を自力で見つける「きっかけ」となる本を目指しました。
 読んだあと、まわりの会話に耳をすませてみたり、誰かと本を見ながら「あなたはどうしてる?」と話し合ったりして「レシピ」を増やしていけば、さらに雑談がしやすくなっていくと思います。

 さて、こんな本を作り上げるには、本当~~~にいろんなドタバタがありました。
 理由のひとつは、私に軽度の発達障害(ASD)があることです。
 次回から、ASDの私が雑談本に挑んだ舞台裏について、書いていきます。

枚岡治子(ひらおか はるこ) 1975年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院前期博士課程修了後、IT企業につとめ、現在はパソコンインストラクターおよびライターとして活動。「普通」と福祉・医療のスキマにできる悩みに関心がある。

※第2回は、こちらです。

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