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【大月書店通信】第170号(2023/3/31)

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「大月書店通信」第170号をお届けいたします。

入学式のころには桜も散ってしまう地域が多そうですが、新しいランドセルや制服のまぶしさはいつの時代も変わりませんね。しかし、子どもたちが通う学校は、私たちが知っていたものとはだいぶ変わっているようです。

「GIGAスクール構想」のもとで教科書もデジタル対応へと変化しています。2024年度から小学校で使用されるすべての教科書にはQRコードが掲載され、「1人1台」の端末から動画などの教材にアクセスできることに。
先進国の中ではデジタル化の遅れが指摘されてきた日本は、いま急激なギアチェンジをし、学校教育を根本的に変えようとしています。それが「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)構想」です。
この構想で掲げられる「未来の教室」は、教科書の変化からも感じられるように、「ワクワクする授業」を期待させるものです。
しかし、今月の新刊『教育DXは何をもたらすか』は、この構想に根本的な疑問を投げかけます。学校教育を縛りつける学習指導要領をそのままに、デジタル社会を担う人材開発を最優先させる教育DXは、本当に子どもたちの育ち・学びに資するものなのか、と。

LGBTQなどの多様性を認める記述が増える一方、「日本」「郷土愛」に固執し教科書を統制する文科省の対応を見るにつけ、教育の何を変え、何を変えようとしないのか、見極める目を養わなければ、と思います。


【新刊案内】 『現場から変える!教師の働き方』ほか3月の新刊6点

3月の新刊です。お近くの書店にてお求めください。(定価はすべて税込)

●「未来の教室」それとも「ディストピア」?
『教育DXは何をもたらすか――「個別最適化」社会のゆくえ』
中西新太郎・谷口聡・世取山洋介[著] 福祉国家構想研究会[編] 2,200円
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学校や教師のあり方、児童・生徒の学びの大転換を掲げる「教育DX」。一見、魅力的な構想の能力主義的な問題を読みとき、個人の要求を基礎にした学びを対置。ケア的かかわりを軸に教育の人間的な関係の再構築を提示する。

●「どうせ変わらない」から「変えられる」へ!
『現場から変える!教師の働き方――できることから始めるローカルな学校改革』
片山悠樹・寺町晋哉・粕谷圭佑[編著] 1,980円
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政策の旗は振られても、なかなか改善しない教育現場の多忙。解決の道は、現場からのボトムアップの改革にある。大阪府枚方市の小中学校での改革の取り組みを調査した教育社会学者らによる知見と解決策の提言をまとめる。

●真摯に向き合いたい人の命、生と死の問題
『生命の倫理学』(シリーズ 大学生の学びをつくる)
三崎和志・小椋宗一郎・林千章・南孝典・府川純一郎・片山善博[著] 2,200円
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女性のlife(人生)と胎児life(生命)の狭間で葛藤や対立が生じる妊娠中絶、他者の命の救済が人の死の判定にかかわる臓器移植の現在…。生と死、人の命と尊厳をめぐるさまざまな問題を具体的な事例から自分事として考える。

●理論、実務、歴史、現状をまるごとカバー
『貿易入門 世界と日本が見えてくる[第2版]』(シリーズ 大学生の学びをつくる)
小林尚朗・篠原敏彦・所康弘[編] 2,530円
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大学1年生を主な対象に、貿易の基本をまるごと解説する好評テキストの改訂版。わかりやすさはそのままに、コロナ禍やウクライナ戦争の影響を含む最新状況を反映。貿易実務も解説しているので、国際ビジネスを志す方にも最適。

●資本主義はどう変わり、どこに向かうのか?
『21世紀のアメリカ資本主義――グローバル蓄積構造の変容』
河音琢郎・豊福裕二・野口義直・平野健[編] 3,300円
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ITや知的財産に基づく新しい資本蓄積、経済の「金融化」とバブルの反復、米中「新冷戦」と軍事産業のゆくえ、政治の分断とポピュリズムの台頭……。ダイナミックに変貌するアメリカ資本主義の姿をトータルに把握する共同研究。

●特集=希望はいつも子どもたちに――「せんせい」になるあなたへ 2023
『月刊 クレスコ』4月号 no.265 550円
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今春から教職員として働く方たちに贈る、毎年恒例の特集。先輩たちの体験談・失敗談、事務職員や養護教諭などともに働く職員や保護者、地域からのエールなど盛りだくさん。教職員の権利、ハラスメントの基礎知識も収録。


【話題の本・本の話題】  四社合同フェア「声をあげれば、社会は変わる? #社会運動の現在形 」ほか

明石書店・大月書店・柏書房・現代書館 4社合同フェア企画

★「声をあげれば、社会は変わる? #社会運動の現在形

全国の書店にて、社会運動をテーマとしたフェアを開催中です。

昨年10月。ひろゆき氏のツイートをきっかけに沖縄基地問題の座り込みデモに注目が集まりました。ネットを中心に賛否両論さまざまな議論が巻き起こり、社会運動のあり方にも焦点が当たるように思われましたが、熱しやすく冷めやすいの言葉通り、世間の関心はすぐに他の話題に移りました。

ある自民党の政治家は「政治に関心が無いのは、決して悪いことではない。健康な時に健康に興味がないのと一緒だ」と言いました。
税と物価の上昇、給与は上がらず雇用は不安定。人口は減る一方。社会保障は破綻寸前。そして未曾有の軍拡。
それでも、権力側(マジョリティ)にとっては問題のない日本社会。
この状態をこのまま続けますか?

社会運動は民主主義の根幹を支える非暴力の主張。しかし、取り組まれる分野の広さ、長期にわたる活動、それに対してなかなか成果が見られないことから、コスパが悪い、難しい、エキセントリックな人たちがやっている気がする。
そんな気持ちも相まって、多くの人がどこか他人事として見ているのではないでしょうか。
このフェアをきっかけに、たったひとりの「声」であっても救われる人たちが大勢いるのだという事実を知っていただきたい。ひとりひとりの行動が、権力者の横暴を止めることができるのだと信じてこのフェアを企画しました。ぜひ、お近くの書店にお越しいただき、直に本を手にとってご覧ください。

開催店舗  *2023年3月30日時点・敬称略

  • 東京堂書店神田神保町店

  • くまざわ書店武蔵小金井北口店

  • 喜久屋書店倉敷店

  • 清風堂書店(大阪・梅田)

  • ACADEMIA港北店

  • 丸善お茶の水店

  • ジュンク堂書店三宮店

  • ジュンク堂書店三宮駅前店

  • ACADEMIAイーアスつくば店

  • くまざわ書店ペリエ千葉本店(もうすぐスタート)

  • 紀伊國屋書店富山店(もうすぐスタート)

  • 紀伊國屋書店鹿児島店(もうすぐスタート)

  • 東京大学生協本郷書籍部(もうすぐスタート)

  • うさぎや栃木城内店(4/10~)

  • ジュンク堂書店那覇店(4/27~)

  • 紀伊國屋書店横浜店(5/1~)

  • 紀伊國屋書店福岡本店(5/1~)

  • 紀伊國屋書店徳島店(5/1~)

☆店頭のようすはこちら。特製リーフレットも配布しています。


★ デモクラシータイムスで「岸本さとこの地域主権宣言」配信中 

ネットTV「デモクラシータイムス」にて、杉並区長・岸本聡子さんがナビゲーターをつとめる番組「岸本さとこの地域主権宣言」がスタートしています。世田谷区、多摩市などリベラル系首長が先進的な政策を実現してきた自治体に学び、地域からの改革=ミュニシパリズムの日本での実現の道をさぐります。

★ 東京新聞社説に『茶色の朝』 

3月29日付東京新聞の社説で『茶色の朝』が紹介されています。

〈社説〉安保法施行7年 「茶色の朝」迎えぬために

…この寓話から読み取るべき教訓は何か。それは、危うい兆候があるにもかかわらず、不自由を感じないという「事なかれ主義」で思考停止に陥り、声を上げずにいると自由な言論は封殺され、全体主義の台頭を許すに至る、ということにほかなりません。(中略)安保法は当初、世論調査では反対が半数を超え、国会を取り巻く大規模な反対運動も起こりましたが、当時の安倍晋三政権が成立を強行しました。自民、公明両党がその後も政権を維持していることを考えると、国民の多数派は安保法の存在に慣れ、気にも留めなくなったのかもしれません。
しかし、日本が再び戦争に参加し、国民に犠牲が出たとき、安保法の成立・施行が転換点だったと振り返ることになるでしょう。


【イベント】 関口竜平 『ユートピアとしての本屋』出版記念イベント

千葉市幕張の住宅街にある新刊書店「本屋lighthouse」。小さな店内には丁寧にセレクトされた人文書やZINEが所狭しと並び、時間帯によっては近所の小学生のたまり場にもなる。
そんな本屋lighthouseのコンセプトは「差別・搾取と闘う本屋」であること。そのために、他者を貶めるヘイト本は置かず、独立書店を冷遇する業界慣行にも遠慮なく物申す。
畑の一角の「小屋」から独力で本屋を立ち上げ、業界内で注目される若き店主・関口竜平とは何者なのか?
知への信頼が揺らぐ時代に、本屋という仕事はどうすれば持続可能なものとなるか。本を売ること、本屋であることは、世界とどのように関わることなのか。
4月に刊行される初の単著『ユートピアとしての本屋』をめぐって、独立書店経営の先輩である本屋B&Bのオーナー・内沼晋太郎さんと対話いただきます。

『ユートピアとしての本屋』(大月書店)刊行記念
関口竜平 × 内沼晋太郎「独立書店を開業した私たちがみる「本屋の未来」
〜本屋lighthouseという挑戦」

日時:2023年4月27日(木)19:30 - 21:30 リアル&オンライン併用
主催・会場:本屋B&B(世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F)
詳細・申し込みは以下のサイトから


編集後記

社内での『資本論』読書会も3回を重ねました。出版社の人間としては、マルクスや資本論をテーマにどんな企画がありうるのかも併せて考えてしまいます。意外性のあるものがいいのか、いやむしろ奇をてらわないほうがいいのか等々。ご意見お寄せいただけますと幸いです。
次号からメルマガ担当者が交代します。一方的な発信ですが、長らく楽しませていただきました。今後ともご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。(Q)

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